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「存在論」って何のためのもの?

ghostbusterの回答

回答No.5

「存在論」というのは、文字通り、ものが「ある」というのはどういうことか、ということをもんだいにしていきます。 下の回答では一気にイデアに話がいってしまってるんだけれど、そもそも「ある」というのは、どういうことなのか。 質問者さんは、「ある」ってどういうことか、説明できます? ものが「ある」。 自分が「ある」。 あなたが「ある」。 わたしたちは、個別の「もの」に関しての「ある」「ない」についてはいえるけれど、そういう個別の「もの」を越えた「ある」ということそのものについて、どう考えていったらいいのか。 それが存在論、というか、形而上学なわけです。 ギリシャのパルメニデスは、「ある」をどんどんさかのぼっていきます。 「ある」はどこから生じたのか。 「ない」ものから「ある」ものが生まれたとは不合理である。 あるいは目を未来に転じます。 「ある」ものが「ない」ものになるのか。 そんなことは不可能である。 となると、「ある」というのは不生不滅である、ということになる。 人間の感覚器官は、変化していくもののありようしかとらえることができないけれど、その感覚器官ではとらえられない向こうに「不生不滅」の「あるもの」があるのではないか。 ここからプラトンはイデアということに向かうのですが、もう話していくと哲学史そのものになっちゃうので、端折ります。 中世に入って、「ある」ということは「神によって保証」されたもの、もののありようを認めるということは、その奥の神の存在を認識するもの、という具合に考えられるようになります。そうして、中世の終わりに、デカルトが登場します。 神が存在する、と、どうして証明したらいいのか。 デカルトはこの根拠を「思惟するわたし」に求めます。 「考えているわたし(=コギト)」という存在は、うたがいえないものであるから、存在しているのだ。 これが一切の根拠となる。 ここから「存在論」は、「もの」の奥にある唯一不動の「あるもの」や、神ということから、「人間」に大きく動いていきます。 このデカルトの「考えているわたし」をさらに押し進めたのが、ハイデガーです。 ハイデガーはプラトン以降、ずっと「存在者」(人間を含むさまざまなもの)にばかり目が向いてきた西洋哲学を批判します。 ただし、「存在」とはなにか、に答えようと思えば、まず、人間はどのような「存在」なのかを明らかにしなければならない。 これが『存在と時間』という本なんです(わたしは読んでませんが)。 読んでないけど、何が書いてあるかはだいたい知ってます(笑)。 人間は、自分自身が作り出したものではない世界に「投げ込まれて」いる。 この世界に存在している「物」とは何か。それは「過去」に作り出され、「未来」の目的のために「現在」使用されている。ここから「物」「人間」「時間」には、わたしたちの日常とは別の基本的な関係がある。 けれども、多くの人間は、そうした基本的な関係ではなく、既存の個体の世界に埋没した生き方をしている。ならばどうした人間が「存在」について問えるのか? 人間は不安という感情によって、自分が存在しなくなるということ、〈死〉に直面させられるけれども、これによってみずからの外へ脱する特異な「存在者」となる。 このハイデガーの存在論に対して、「他者」の観点から存在について考えていったのが、レヴィナスです。 他者が「ある」とはどういうことか。 通常、他者はわたしへと現れるためにわたしたちは他者を認識しうるもの、〈知〉の次元でとらえることができるもの、と受け止めます。 けれども、「他者」も「わたし」と同様に「わたし」という経験を持ち、言葉を発し、他者と関わる。この「他者」の存在を、「わたし」の存在と同一線上に考えることができるのか。 あともうひとり、忘れてはならないのが、ハイデガー同様、〈死〉に直面する人間、ということに、まったくちがうやり方で迫っていったのが、バタイユです。 バタイユも〈死〉について考察しますが、死というのは、わたしたちがそこへ向かい、どれほど接近したとしても、死そのものと出会うことはできない。真に経験され、完了することがありえず、「経験」とはなりえないまま、その経験のうちにとどまる。これを「内的体験」と呼ぶ。 バタイユはものすごくおもしろいけれど、いわゆる存在論、いわゆる形而上学に位置づけられる人とはちょっとちがうのかもしれません。 ですから > 現代社会で存在論が問題になる例 としては、ハイデガーとレヴィナスをあげることが一般的ではないでしょうか。 「存在論」の有効性が、徹底的に批判されたのは、二十世紀初頭の論理実証主義の時代です。 論理実証主義というのは、観察によって検証され得ない「命題」には、意味がない、とします。実在する「もの」を超えたところでの存在のありようなど、経験的に検証することができないもんだいは、問うこと自体が無意味である、と。 けれども、第二次世界大戦を経て、こうした「近代的思考」の確かさが揺らいでくる。 そうなって、もういちど見直されてきたのが、形而上学、存在論としてあるわけです。 こういうことを問うことに「重要性」があるのかどうなのか、わたしにはなんとも答えようがありませんが、他者について、あるいは死について、あるいは、芸術について、あるいはまた人間の知覚について、表面にあらわれてくるものを超えて、その奥にあるものを考察しようとしたときは、なんらかのかたちで存在論に結びついていくものなのではないでしょうか。

white-tiger
質問者

お礼

> 「存在論」の有効性が、徹底的に批判されたのは、二十世紀初頭 > の論理実証主義の時代です。論理実証主義というのは、観察によ > って検証され得ない「命題」には、意味がない、とします。実在 > する「もの」を超えたところでの存在のありようなど、経験的に > 検証することができないもんだいは、問うこと自体が無意味であ > る、と。 これを読んで少しほっとしました.やはりそう思う哲学者もいたのですね. 私も,観察によって検証され得ない「命題」には、意味がないと素朴に思っていたので,むしろ何で「存在論」みたいなものが生まれたのかな,というのが不思議だったのです.

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