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定義が難しいとは?

noname#210533の回答

noname#210533
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回答No.6

なぜ定義しなければならないか、そう少年に 問われて、その初老の女性は答えた。 「私の人生は誤解されるばかりだった。 自分の気持ちや、何故そんなことを 云ったのか、そんなことをしたのか。 それを伝えようと一生懸命言葉を尽くした。 でも、思いもしない悪意の解釈で私は 心が折れてしまった。 一意に思考を 伝えたい。 そうして私は中途半端に それに挑み、多くの人から更に誤解され 心がボロボロになって死にそうになった。」 少年は答える。 「僕は定義について訊いたんだよ?」 初老、というにはまだ少し若いその女性は、 微笑みながら、まだ肌寒い砂浜の潮風に 奇麗なラベンダー色の柔らかそうなマフラーの 襟元を寄せて、声変わりしたてのような ハスキーボイスの、背丈では自分よりずっと 高い隣の少年にうなずいた。 「誤解されていく言葉をきちんと伝えるために、 言葉が持つ色あいや肌触りを削ぎ落としていったの。 そういうものは、人によって捉え方が違うのよ。 だから、誰にでも伝わる思考の部品だけで 思考を伝える文章、数式なんかその最たる ものなんだけどね、そういう風にカチカチに 編んだ言葉のことを、リロンテキ、と称する ようになったのよ。」 少年はスラリと長い足で足もとに捨てられて 転がる漁師のガラス玉をサッカーボールみたいに 弄びながら、大好きだった、でも死んでしまった恋人の、 彼女のお母さんに訊いてみた。 (似てるな、やっぱり親娘だ)と思いながら。 「それを短く詰めたものが、定義なの?」 昔の人にしては背丈のある、優しい品のある おばあちゃん、なんて見たら失礼なのかな? と、少年は彼女の銀色の髪留めを撫でながら、 彼女の言葉を辛抱強く、待った。 「・・・ごめんなさいね、ちょっと昔のこと、 思い出してたの。 そうよ、色んな誤解を 受けないようにと色も味も匂いも抜いた 文章の「考え」を、更に永遠のものに、 変質しないように短く詰めていったらね、 それは「言葉」というよりも「定義」という、 別な単語を割り当てた方がよくなったのよ。」 ナスカ、と僕がつけたあだ名で呼んで欲しい、 という彼女は、古い遺跡の研究をする学者だ。 今も時々南アメリカや太平洋上の孤島に 一人で調査の旅に出る。 「言葉には、魂が宿る、って日本人は昔から 言うのね。 あたしもそう思う。 魂が宿る、 つまり生き物だから、人から人へと伝わる時に 成長したり全然違うものに変身したり、疎外されて フェアリーがゴブリンに化けたりしちゃうのよ。 誰もが間違いなく、誰かが人生を費やして 考えたことを受け取って自分の人生に活かす ことができたら、自分が死んでもね、自分の 命は色んな人の心に伝わって、その人の 心や思考に同化して生き続けていけると 思わない?」 彼女が難しい話をする時は、目がきらきらして 顔がアスカに似てるせいかも知れないけど、 若返って行くような錯覚さえ覚える。 そんな彼女の横顔には、時々早くに亡くした 彼女の夫の、彼も考古学者だったそうだけど、 彼女の写真入りペンダントの中で問いかけて くるような、いかにも先生らしい表情が、確かに 彼女の表情にも宿ったような印象があった。 <あなたは、本当は、誰なの?> 少年はふと、目の前で印象が変化する女性の 海を見る横顔が奇麗だな、と思ってしまった 自分の気持ちにドギマギして、つばを飲み込んで うなづいた。 随分年上の女の人なのにな。 「定義というのは、当分の間、疑いをさしはさむ 余地が殆どない、だからそこを起点に問題を 解き明かしていきましょう、そしてもっと新しい 考えを生み出しましょう、という人類の英知を 育てていく基本単位として決められたものね。 だから、人の思考のネットワーク化のために 決められている、厳密な思考のプロトコル、 とも言えると思うわ。」 授業中の先生みたいな口ぶりの彼女の、 淡いブルーに染められた髪は奇麗に後ろで 巻いてまとめられていて、その銀の髪飾りは 明日香が生きていた頃に彼女のために 僕がシルバークレイで手作りしたものだった。 少年は彼女の顔を透かして、永遠に歳を 取らなくなったガールフレンドの面影を 記憶の中に追いかけていた。 「・・・明日香はさ、俳句とか好きだったよね。 あれも一種の定義、かもね。理屈を縮めて シンプルにまとめたものを定義というなら、 風景とか、それを見て感じた気持ちとか、 そういうものをシンプルにまとめた俳句って <心の定義>みたいなものかもね。」 彼女はふいに髪留めを外すと、少年の ほうに向きなおった。 潮風に、彼女の長い髪が一気に広がる。 長い蒼い髪をなびかせて、彼女は少年の 色違いのマフラーの襟元を、寒くないように 巻きなおしてあげた。 「ナスカさん、また遺跡の旅にいくの?」 「来月ね。ねえ、この髪留め、お守り代わりに 持って行ってもいい?」 「当たり前じゃん。それ形見なんだし。 それに、本当はそれとペアで造った 指輪を僕、持ってるから。大丈夫だよ。」 ありがとう、とにっこり笑った彼女は、また 鎌倉の海に向きなおり、楽しそうに言った。 「あの娘のおかげで私は本当に幸せだった。 まさか、13歳も若い恋人を連れてくるとは 思わなかったけどね。 シングルマザーとして色んな事に歯を食い しばって生きてきたけど、流石にね。 もう、死のうと思ったのよ。 定義、ってシンプルだからこそ難しいよね。 定義できないものばっかりだもの、人生って。」 少年は来年は受験勉強の学年だ。 目指す大学はもう決めてある。 彼は、考古学者になるつもりなのだった。 自分の命をお終いにしようとしたナスカを 急行電車からタックルして死に物狂いで 助けてから、もうすぐ一年になる。 しばらくは気が気じゃなかった。 無理やり一人ぼっちになってしまった 彼女の家に押しかけ下宿人になったのは、 少年の家も定義しにくい複雑な家庭だった ことも理由だ。 今では疑似親子・・・友達同士? みたいな、でも気持ちは通じる付き合いを している。 人間関係だって、本当に定義するのは 難しい。 親子、恋人、夫婦・・・どれも確かに一意に 同一のものを示したりはしないもの。 「気を付けて行ってきてね。留守番はちゃんと やっとくから。」 「うん。私は長生きするつもりだから。 元気で帰ってくるね。 ちゃんと待っててね。」 少年は思った。 定義そのものが大切なものなんじゃないのかも 知れない。 想いや考えや、その人がどんな経験をして、 どんな人生を歩いて来て、だから何をどう 考えているのか、何を目指しているのか。 そういう色んな頭の中のことを、誰かに伝え 生きていくということ。 定義しようとすることは、沢山の人に伝えて、 誰かに受け取ってもらって、そして、自分も 誰かも皆をも、生かすことだ。 定義も大事だけど、定義して生かそうとすることが 人間のイトナミということなんだろな。 <<二人は自分達をこれから、どう定義していくのでしょう。 物語は印象を変え人を変えながら、続いていきます。>> 定義の向こう側に、それに向かい合って生きた、 あるいは今、生きている人々の心や思考に触れて 生きていけることが幸せだよ、アスカ。 君のママと、一緒にずっと、忘れないから。 少年は、ナスカと寄り添って、七里ガ浜の水平線の 上に広がる青空と、夕焼けが近づいてオレンジに 染まりつつある雲を、ずっと眺めていました。 少し肌寒い、柔らかく湿った海風が、ずっと 遠い海の向こうから渡り続けていました。 <EOF> ちょっとショートショート風に書いてみました。

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