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証言拒否

iustinianusの回答

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回答No.7

1 証人が、証言拒否事由を明らかにすれば自己又は身内が訴追又は有罪判決を受けるおそれがあると供述しただけでは、刑事訴訟規則122条1項所定の「事由を示」したことにはならない場合が多いでしょう。裁判所において証言拒否権の存否が合理的に判断できるような内容ではないからです。  No.5の拙稿でお示しした例では、被告人が被害者を刺殺したことが公訴事実となっていることとの関係で、経験則上、被告人が犯人であれば返り血を浴びていることが多いと考えられるため、「主人に不利かもしれないので」と証人が説明したことと尋問の流れとを総合すれば、裁判所において「証人は被告人の着衣の異変について供述を拒否している」ことが理解できます。そして、仮に証人が着衣に異変があった旨証言すれば、罪体(罪となるべき事実)の認定において有力な間接事実となるおそれがあることは明らかですから、刑事訴訟法147条1号所定の証言拒否事由があるという判断が可能です。ですから、上記の例では、「主人に不利かもしれないので」と証人が説明するだけで、「事由を示」したことになると考えられます。  これに対して、たとえば2人組の男女による銀行強盗事件において、捜査段階では犯人らが「ボニー」、「クライド」とお互いを呼び合っていたという銀行員の証言が得られているが、共犯者のうちの女性であるとして起訴されたAの公判廷において、同銀行員の供述調書が不同意となり、既に共犯者のうちの男性であるとして有罪判決が確定しているWを証人尋問する場合を考えます。  この場合、Wが、検察官の「被告人の学生時代のあだ名は何でしたか。」との発問に対して、「ボニーでした。」と証言することを拒否し、「妻に不利かもしれないので」と供述したのみで沈黙したとすると、裁判所は、Aの学生時代のあだ名を証言することがなぜAに不利益なのかを判断できないわけですから、Wとしては、さらに「私は相棒の女をあだ名で呼んでいました。」といった程度の供述をしなければ、「事由を示」したことにはならないと思われます。  singolloさんがご懸念の、「事由を示」したことにより、証言拒否権が及ぶはずの事実につき実質的に証言したことになるのではないかという点については、上記の例でも明らかなとおり、証言拒否権が及ぶ事実そのものを供述しなくても「事由を示」すことは可能ですし、証言拒否権が及ぶ事実そのものを実質的に証言したことになるような場合が仮にあるとしても(上記の銀行強盗の例でいえば、「私は相棒の女をあだ名で呼んでいました。」という供述がこの場合に当たり得ます。)、その供述自体を罪体の認定に用いることはできません。そう解さなければ、ご指摘のとおり、刑事訴訟規則122条1項と刑事訴訟法146条、147条とが矛盾するからです。  この場合、罪体の認定との関係においては、発問自体が存在しなかったものとみなして事実認定をしなければなりませんから、上記の銀行強盗の例でいえば、「被告人の学生時代のあだ名は何でしたか。」という発問そのものが存在しないことになります(上訴審が適法な証言拒否がなされていたかを審査する場合に備えて、尋問調書には、発問とこれに対する証言拒否とを記録するのが実務です。)。  ところで、証人が沈黙した事実から事実を認定するためには、証人に対する発問の存在とその内容を前提として、その沈黙の意味を解釈しなければならないのですから、発問そのものの存在が無視されれば、証人の沈黙の意味は、「検察官が沈黙し、証人も沈黙した」ということ以外にはあり得ず、証人が沈黙したという事実からは何らの推論もなし得ないことになります(singolloさんのご疑問を解消なさる鍵は、この点にあります。)。 2 刑事訴訟法160条、161条は、空文ではありません。ただ、証人が証言拒否事由を何ら示さずに証言を拒否したとしても、証言自体を強制する手段は存在しません(たとえば自白剤を注射することはできません。任意性を欠き、証拠能力のない証言になるからです。)から、裁判所としては尋問を続行する以外に方法がないのです。  過料や証言を拒否する罪の制裁を科するに足りる要件が存在すると認定できるか否かは、別個の手続に委ねられることになります。 3 証言を拒否した証人に検察官が別の角度から尋問することは妨げられません。  なお、「憶測に基づく尋問」は禁止されません。刑事訴訟規則が禁止するのは、主尋問における誘導尋問(はい、いいえで応答可能な尋問、199条の3第3項)及び199条の13第2項各号所定の尋問です(singolloさんがご指摘の事例は、誘導尋問ないしは場合によっては「意見を求め又は議論にわたる尋問」(199条の13第2項3号)に当たります。)。  singolloさんがご指摘の事例で、検察官がシャツは被告人の物かどうかを発問することは、当然許されます。この場合において、証人が証言を拒否したときは、発問そのものの存在が無視されるために、シャツが被告人の物であることを裏付ける証言は存在しないわけです(上記1ご参照。この場合は、検察官としては、縫い取りが被告人の妻が持つ特殊な技法によってなされたものであることなどの、別の間接事実(情況証拠と同義の用語です。)を立証することにより、シャツが被告人の物であることを立証することになります。)。  事実としては存在したはずの検察官の発問とこれに対する証人の証言拒否との双方が、判決においてはその存在を無視されることにより、傍聴人等に奇異な印象を与えることがあるとしても、適法な証拠調べを経た証拠でなければ罪体の認定に用いることができないという刑事訴訟の鉄則からはやむを得ません(裁判所としては、判決理由中で、なにゆえ証人の証言拒否の事実を無視したのか詳細に説示するなどのプレゼンテーションを考えることになります。)。その結果、罪体の立証が不十分であるとして無罪判決がなされることも、当然あり得ます。 4 検察官が起訴不起訴(または捜査の続行)の判断をする際に最も重要な観点は、「被告人が公訴事実を争ったとすれば弁護人が供述調書を不同意にすると見込まれる供述調書に係る供述者が、公判廷で捜査段階の供述を覆したとしても、他の証拠から有罪判決を獲得し得るか。」というものです。  端的に申し上げれば、検察官は、証言拒否権の行使もあり得ることを視野に入れて、証拠収集に努めなければならないし、現実にもそう努めています。 5 証言拒否事由が適法であることを示すためには、結局拒否しようとした証言内容そのものを供述するしかないのではないかとのご疑問については、必ずしもそうとはいえません(上記1ご参照)。  また、「諸般の証拠から拒否された証言内容を一義的に特定する」ことができるかどうかは、証人に対する過料の制裁の賦課手続や証言を拒否する罪の公判手続において、初めて問題となります(上記2ご参照)。  証人が証言した公判手続においては、あくまでも証人が証言しなかったという事実をどのように評価するか、つまり、適法な証言拒否と認めて発問も含めて無視するか(この場合は証人が証言を拒否した事実から何らの推論もなし得ないことは繰り返し申し上げているとおりです。)、不適法な証言拒否と認めて証人の証言の信用性を減殺する補助事実とみるかが問題となるのみです。 6 傍聴人に証言拒否があった事実を証言させることは考えられません。  なぜなら、たとえ適法な証言拒否があった場合であっても、尋問調書には、発問とこれに対する証言拒否とを記録しておくからです。  ご参考になれば幸いです。

Singollo
質問者

お礼

大変詳しい解説をありがとうございます お返事が遅くなってすみません(ご紹介いただいた刑事訴訟規則というのを参照しようとwww.houko.comで探してみたのですが、非公開だったもので、ついでに図書館まで行く機会を窺っているうちに日が経ってしまいましたm(_ _)m) 日本の裁判制度というのが裏付けの無い性善説に立っていることがよくわかり、大変興味深く、勉強になりました 今後ともよろしくお願いします

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