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日本におけるシューベルトの評価は正しい?

Tastenkastenの回答

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回答No.7

こんにちは。 シューベルトについて、客観的に評価をお伝えすれば済むかと思っていたら、思わぬ方向へ行っていますね。このサイトではそう簡単には行かないようです。 書き終わってみると、4000字を超えていそうなので、2回に分けて出すことになると思います。 お礼に書いていただいたことについて補足する前に、交響曲の話をしておいた方がよさそうです。日本でなぜこのようになっているのか、驚くばかりですが、理由はいくつか考えられます。それは、権威とか、定説とか、古典時代の価値観ということとは違う話です。まず、録音などがなかった時代の、ヨーロッパでの、日常の音楽の楽しみ方を考えてみてください。オーケストラの演奏会にしょっちゅう行けるわけもなく、ラジオで聞くこともできません。したがって、当時は、サロンや家庭で演奏して楽しめる室内楽や歌曲は重要な楽しみで、作品もたくさん書かれました。こういう習慣は、日本には根づかなかったといっていいでしょう。明治、大正や昭和初期が舞台になったドラマなどで、時々上流階級の人たちがそのようなことをやっているシーンがありますけれど、ごく限られたものです。ですから、室内楽や歌曲を日常的に楽しむ伝統そのものが、日本にはないといえます。また、洋楽導入期には、オペラのような大掛かりなものはなかなか日本人だけでは上演できませんでしたので、そうなると結局、オーケストラになります。そういう日本特有の歴史的背景があると思います。もう一つは、現代の問題です。ジャズやロックなど、電気的に拡声された大音響に耳が慣れてしまっている現代人には、室内楽や歌曲、ピアノ独奏の地味な曲などは物足りないでしょう。だからマーラーのような、大オーケストラの交響曲が人気になるのです。オペラは、歌詞が外国語な上、話の舞台も、なじみのない、昔の外国ですし、ジャズシンガーなどの、ストレートで生命力にあふれる声を聴いてしまっている人には、クラシックの発声法が我慢できないというのもよくわかります。 交響曲というジャンルは、確かに西洋音楽史の中で見れば、器楽の作曲法が集大成されるジャンルですから、重要視されるのは仕方のないことです。ただ、交響曲における業績だけで作曲家の価値を図るというのは偏った考え方です。今書いたような歴史的な事情のほかに、日本でそういうことを主張する人たちがそんなに多いのでしょうか。私が今一番心配しているのは、日本の二流評論家や怪しげな文化人の発言が、音楽愛好家に信じられて、インターネットなどで広まることです。ときどきそういうサイトを見かけます。そういえば、佐村河内氏が登場した時も、マスコミが、「交響曲はクラシックで最も作曲が難しいジャンル」とかなんとかいうコメントがあって、あきれました。長くなるので詳細は省略しますが、技術的に言えば、それぞれのジャンルには、それぞれの難しさがあります。もっとも、日本のマスコミは、ちょっと目立った業績を上げた人がいると、必ず「最高の」というのがお決まりです。某ピアニストがある国際コンクールで優勝した時も、もう一人の優勝者にはほとんど触れず、ショパン・コンクールやチャイコフスキー・コンクールも無視して、「世界で最も難しいコンクール」と報道しました。多くの人がそういう報道に乗せられます。 それと、歴史的な事情で忘れてはいけないことがもう二点あります。ドイツ語圏で交響曲が発展したのは、別に音楽的に先進国だったからではなく、たまたま交響曲というジャンルが、ドイツで開拓、発展された、という事情によります。交響曲の原型は、古い時代のイタリア・オペラの序曲ですが、それを交響曲として発展させたのが、ドイツのマンハイム楽派の作曲家たちです。モーツァルトも、このマンハイム楽派の交響曲の影響を受けました。その後の、ドイツ語圏での交響曲の発展には、やはり、ドイツ語圏特有のロマン主義があると思います。交響曲を書くにあたって、やはり、この世界全体を包括するようなものを作り上げようという気概があったと思います。これがよくわかる例は、マーラーとシベリウスが会って話した時のエピソードです。二人の意見は合いませんでした。しかし、オペラに関しては、ドイツよりも、イタリアやフランスの方が先行しています。国や文化圏によって、発展するジャンルに違いが出たというだけです。もう一つの歴史的事情は、明治維新後の洋楽導入期には、まず、おもにドイツ人によってドイツの作品が伝えられた、という事実です。おそらく、ここがおおもとだと思います。 さて、私はしばらくシューベルトを聴いていなかったので、改めて少し聞いてみました。第1番は、さすがに習作風で、やや平凡ですが、オーケストラの扱いはすでに熟練しています。第2番も第3番も、非常に質が高く、軽視するべきものではありません。むしろ、ベートーヴェンの第1番や第2番より面白いくらいです。もちろん、クラシックファンが好むような、超名曲のような派手さはありませんが、傑作ぞろいです。作曲家の目から見れば、シューベルトは立派な交響曲作家だと思います。日本では、そうみなされていないのかもしれませんが、ヨーロッパではそんなことはないと思います。それから、シューベルトが作曲家として過大評価されているという話は、これまで音楽をやってきて、聞いたことがないのですが、日本の評論家か何かがそんなことを言っているのでしょうか。私はウィーンに12年近くいましたが、過大評価されている、などという話は聞いたことがありません。一体どうなっているのやら。 ゲーテが、後年、シューベルトの歌曲の評価を変えたという話、よくお調べですね。実は、先の回答で触れたドイツでの講演にも、そのエピソードは含まれていたのですが、長くなるので省略しました。以前、私の翻訳が出ていたサイトがあったので、それを御覧になったのかと一瞬思ったのですが、出典が違いますね。ただ、ゲーテが後悔した、と言い切れるのかどうかは疑問です。この部分だけ、私の訳を引用してしまいますが、 「この曲は、前に一度聞いた時はちっともいいと思わなかったけれど、こういう風に演奏されると、全体がはっきりしたひとつの情景となるね。」この話は、実に好意に満ちたように聞こえますが、本当に理解したとか、ましてや感動したなどということはいえないでしょう。 ということになっています。 >◇バルトークを忘れていますよ♪ いえ、忘れていません。「一気に下って」、と書いたじゃありませんか(笑)。全部書ききれないからです。あと正直言うと、バルトークは、われわれ作曲家は技術を学ぶために必ず見ますけれど、そうそう聞きたいと思う曲ではないんです。 >私にとって不思議なのは、『魔王』のピアノ伴奏の素晴らしさが、なぜ、ピアノソナタに生かされていないのかです。 前回お話ししたように、シューベルトのピアノの腕はそれほどではありませんでした。「魔王」のピアノパートも、「自分には難しすぎる」と言ったそうです。技巧的な曲としては、「さすらい人幻想曲」というのが知られていますが、指使いの面からみると、あまり合理的でなく、弾きづらいところがかなりあります。ピアノを勉強するときも、シューベルトのソナタは、カリキュラムに組み込みにくいのです。シューベルトを弾くことで、指の技術の向上を期待することはできないので、せいぜい、「即興曲」や「楽興の時」くらいです。ソナタに取り組むのは、音大に入ってからか、プロになってからということになります。 リストの評価については問題がありますが、ここでは省略します。 他の回答にされたコメントに関してですが、 >オペラとオペラ作曲家の評価が低すぎます、日本は。 そうですか? オペラ・ファンはたくさんいると思っています。海外のオペラの来日公演も目白押しです。招聘するには巨額の費用が掛かります。もちろんスポンサーあってのことですが、切符が売れなければできないことです。最近は、ヤナーチェクなどのオペラも評価されるようになってきて、よいことだと思っています。ツィンマーマンの「兵士たち」や、ライマンの「リア王」など、現代音楽のオペラも上演されるようになっています。 >日本人のクラシックファンは、番号の付いていない交響曲を聞きたがらない、という傾向があるように思います。ベルリオーズの『幻想交響曲』やR.シュトラウスの『アルプス交響曲』はバッタもん扱いされ、番号の付いていないチャイコフスキーの『マンフレード交響曲』は見向きもしない。しかも、フランスの偉大な作曲家サン=サーンスの交響曲は、ドイツ人作曲家の交響曲より数段価値が劣るものと考えられている。第3番の『オルガン付き』もイロモノ扱いだし…。 これ、本当にそうなんですか? だとしたら日本には失望しますよ。「マンフレード」はあまり聞いていませんが、ほかの曲は皆好きです。作曲家のほうが、ファンの方たちより通俗的ということですか(笑)。オネゲル、渋いですねー。デュカ、ショーソン、ルーセルなどもご存じなんですか? 後、日本の偏ったところは、ニックネームのついた交響曲に群がることですね。そもそもヨーロッパの演奏会のプログラムには、「運命」「合唱付き」などと記載されません。作曲家自身の命名でないものは、書かないことが多いです。日本人の通俗的なところ、というかブランド志向というか、テレビの美術番組でも、ゴッホの「ひまわり」や、モネの「睡蓮」ばかり繰り返し出てくるではありませんか。 この辺で終われるかと思っていたのですが、書いている間に新しい意見が寄せられたようです。 (続きます)

NemurinekoNya
質問者

お礼

回答、ありがとうございます。 ☆最近は、ヤナーチェクなどのオペラも評価されるようになってきて、よいことだと思っています。ツィンマーマンの「兵士たち」や、ライマンの「リア王」など、現代音楽のオペラも上演されるようになっています。 ◇オペラの人気は着実に上がっていると思います。 ☆これ、本当にそうなんですか? ◇はい。 日本のクラシック・ファン(素人です)の間では、 絶対音楽(?)こそ最高の音楽とされており、標題音楽(?)は劣るものとみなされています。 したがって、 ベートーベンの第6番交響曲『田園』は、 これが絶対音楽か標題音楽かによって、その評価が上がったり、下がったりします。 そして、多くのクラシックファンは、『田園』を色物扱いしています♪ ベートーベンの交響曲の中で何が一番好きと聞かれて、『田園』と答えたら。。。 まして、ベルリオーズやR.シュトラウスは、言わずもがな。 ビバルディーの『四季』も色物扱いで、クラシックの入門向けの曲で、通(?)の聞く曲ではないとされています。 その癖、あだ名やタイトルがついている曲が人気あるんだよな~。 不思議な国なんです!! ☆デュカ、ショーソン、ルーセルなどもご存じなんですか? ◇聞きますよ。フォーレも聞きますし、メシアンも聞きます。 回答、ありがとうございました。

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