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検察の起訴裁量について

law_amateurの回答

回答No.7

 検察官の起訴裁量権を考えるためには,民事のいわゆる検察国賠事件の判決も見る必要があります。  最高裁昭和53年10月20日判決(民集32巻7号1367頁)は,「公訴の提起は検察官が裁判所に対して犯罪の成否,刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから,起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当である」としていますが,これを裏から読めば,検察官において,合理的な判断過程において有罪と認められる嫌疑がない場合には,訴追権はないということを述べているように見えます。  また,最高裁平成2年7月20日判決(民集44巻5号938頁)も,再審無罪ケースについて上記の判断を再度示しています。  このことと刑訴248条の条文を組み合わせると,訴追時に検察官において,合理的な判断過程において有罪と認められる嫌疑がない場合には,それをあえて起訴するという裁量権はない,ということになります。  質問の,「通常であれば起訴されない事件」が,訴追時に検察官において有罪の心証をとるだけの嫌疑がない事件という意味であれば,それを検察官の裁量で起訴する権限はないということになります。  質問の,「通常であれば起訴されない事件」の意味が,上記のような場合は,このような結論になります。というのが,オーソドックスな議論です。  しかし,現在の被害者主権の時代を考えると,あるいは,被訴追者の自己決定権ということを考えると,被害者の納得のため,逆に,被訴追者が自分が潔白であることを確定させるため(被疑者が,自分は無罪なのに,有罪を推定させる起訴猶予とされたことに不満を持つことは十分考えられます。),検察官に起訴を求め,検察官がこれに応じるということの,法律的な可能性は,当然議論されてもしかるべきではないかと思われます。  いまのところ,検察官が,無罪となる可能性を予測しながら,あえて起訴した事件があるとは思えませんが,いずれそのような事件が出てくる可能性はないとはいえないと感じられます。学説的に,そのような議論が出ているのかどうかも,私には判然としませんが,あってもおかしくないと思っています。  この点に関しては,随分以前ですが,有罪率の高さが批判されたことに関連して,かつて,某教授(名前を忘れました。)が,「もっとあっさり起訴することができてもよいのではないか」という趣旨の発言をされたことがあると記憶しています。このような議論は,無罪予測事案についての検察官の裁量権を考えさせる一つのきっかけになるようにも思えます。  なお,起訴猶予相当事件を起訴したことが裁量権の濫用になるかどうかは,控訴棄却の可否が争われた,いわゆる川本事件の最高裁判決が述べているとおりです。  この事件は,起訴すれば,実体的に有罪は明らかな事案で,ただ,その事件の経緯からして,起訴猶予とすべきであったとされる事案に関するものです。  訴追時に有罪心証事案と,無罪心証事案では,最高裁の考えが大きく違っていることが分かると思います。

thinker123
質問者

補足

Law amateurさん、ありがとうございました。ちなみに、あなたは法曹ですか? 私は法哲学が好きなのですが、実定法は勉強したことがほとんどありません。はじめの6つのパラについては、痒いところに半分指が届いた感じです。ただし、一つ疑問が残ります。 私が問題としているのは、類似の件の類似の扱いです。つまり、仮に有罪と認められる嫌疑があったとしても、類似の件をすべて起訴していないなら、一件だけ起訴するのはいかがなものか、ということです。 本日村上氏の裁判が問題になっていますが、村上氏が有罪になる嫌疑でなく、同様のことをしている人がどのように扱われてきたか、扱われているかを無視して起訴するのはだめだ、と私は考えています。 Law amateurさんの考えでは、十分な嫌疑がない件を起訴する裁量はなくても、嫌疑があれば、類似の件(あるいはそれよりひどい件)がすべて見逃されていても起訴する裁量はある、と考えますか? つまり、「有罪の嫌疑」の定義が問題です。二つの定義のうち、私は後者だと考えています。 有罪の嫌疑の定義1:当該件を裁判で有罪にできる可能性がある 有罪の嫌疑の定義2:客観的に類似の件がどう扱われているか(類似の件で有罪のものがあるか判例を調べるだけでは不十分です。類似の件が99%起訴されないのであれば、1%の立件されている件との類似性を強調しすぎるのではなく、99%の起訴されないケースに従うべきです) 最後に、私も有罪率を高くするために無駄な労力を検察官が使うのはよくないと思います。不当に起訴されたと思う人も不快ですし、不当に起訴してもらえなかったと思う被害者も深いです。機械的に上げて、裁判所が判断するでいいと思います。検察官は、機械的な仕事をしていると思いたくないがために、結果として人々に不快な思いを与えてしまっているのです。これは、現在の検察が、上記の有罪の嫌疑の定義を1と2の中間においていて中途半端な制度設計になっているからだと思いますがいかがでしょうか。 川本事件の少数意見は検察官出身者でしょうか?

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