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出エジプト記の意義

taco8chの回答

  • taco8ch
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回答No.4

出エジプト記がいつ、どんな人の手によって書かれたのか、 こんにちもなお完全な解明には至りませんが、 少なくともそれが書かれた時代には、 モーセやアロンなどの登場人物はとっくに伝説上の人で、 この記事を書いたのは荒野の放浪をした人などではなく、 すでに定住生活をしていた集団だと容易に推測できます。 なぜなら、荒野を放浪しているはずのホームレス民族が、 農事形式、農産物についての規定を記そうはずがないからです。 出エジプトの記者たちからずっと後の時代に生じたキリスト教は 出エジプトに限らず、あらゆる旧約の記事を、 キリストの出現と十字架上での死の物語に シンクロさせて、旧約の意義に再解釈を施すことによって、 新興宗教であった自らの神学的権威を旧約との 相補的連続性の下に表現することに成功したわけです。 そしてこうした新興宗教の権威付けに大きく役割を果たしたのが、 いわゆる「予型論」的な解釈です。 具体的には、旧約と新約の関係を 「予言とその成就」というからくりによって説明付けていきます。 たとえばそれは、失楽園の物語から人類の原罪思想を導き出し、 アブラハムとイサクの伝承から神の子イエスの磔刑を導き出し、 キリストの誕生には、たとえば数百年も前の イザヤ書という書物の一節がその予言として わざわざ引っ張ってこられる始末です。 とくにキリストの誕生について深く記す福音書部分においては、 旧約のあちらこちらから詩文やオマージュが散りばめてあります。 いまや新約は、旧約で予言されたことごとくの成就という政略結婚をし、 ついには旧約に対する新約の優越論まで形成することになります。 しかし、おそらく伝統的なユダヤ教の側からしてみれば これらはきわめて一方的かつ独善的で独りよがりな解釈に過ぎないでしょう。 モーセという力強い英雄が、強大なエジプトの抑圧から神の民を解放し、 神との約束の地へと導く物語は、 捕囚期のユダヤ人の時代には、 アッシリア、バビロニア、ペルシアなどの世界帝国からの解放を、 そして新約のクリスチャンの時代にあっては、 あの偉大なローマの支配からの解放と、やがて天下る神の国の統治へと導く 夢想をシンクロさせていたに違いありません。 なにせ、旧約の記者が喉から手が出るほど どうしてもどうしても欲しかったのは、 失われた故郷への帰還と神殿の再建であり、 ついには自分たちの王権、具体的には、 伝説のダビデ・ソロモン王朝の栄華の再来だからです。 余談ですが、宗教的弾圧から信仰的自由を求めて脱出し、 長い旅の末に、新天地で神の国を築くという物語といえば、 なにやらどこかで聞いた気がしませんか? 自称「世界の警察」を名乗るどっかの超大国の建国神話に そっくりそのまま移植されていますね。 奴隷解放宣言、自由と民主主義、フロンティア、20世紀FOX…… 旧約聖書はクリスチャンにとって実に都合のいい装置なのかもしれません。 さて、ところで、はたして出エジプトの記者たちは実際、 そんなことを考えてこの物語を記したのでしょうか? 自分たちから数百年また数千年も後に、 キリスト教徒いう、どこの馬の骨とも知らない連中が現れて、 奇天烈な旧約の解釈をこじつけ、 外国人たちによって続編が出版され、 あろうことか「聖書」を名乗り、 自分たちの特権であったはずの神との契約が更新(廃棄)されることなど、 彼らにしてみれば毛頭考えもしなかったのではないでしょうか。 青銅の蛇の記事について言えば、 初めてこの話を読んだ者は当然の疑問を感じるのではないでしょうか? あるいはクリスチャンならこの記事を少なくとも二つの点において 驚きなくしては読めないはずです。 その一つは、そもそも蛇とは、創世記でエバをたぶらかして、 結果、失楽園を招いた悪魔の化身ではなかったでしょうか。 黙示録においてさえその蛇は悪の権化として登場します。 (このへん字数制限で泣く泣く割愛しますが、 古代の神話を探ると、いろいろと面白いです。 意外や意外、蛇は世界中で救済の神としても崇められてたりもするのです) のみならず、――この二つめが重要なところなのですが―― そもそもモーセは、ホレブ山で神から下賜された十戒において、 偶像崇拝を堅く禁じていたのではなかったのか。 しかしここでのモーセは、神がもっとも毛嫌いするはずの偶像崇拝を、 やすやすと、しかも積極的に、救いを求める民に勧めているのです。 予断をゆるすなら、初期キリスト教時代においては、 この記事の矛盾は大きなジレンマとして横たわっていたはずです。 だれが読んでも、これは明らかに受け入れがたい矛盾だからです。 そこで中世教会の面々は考えました。 前にも述べた「予型論」でした。その内容については回答#1にあるとおりです。 つまり、青銅の蛇がイエスの十字架の予型とされるのは、 あくまでクリスチャンの側からの旧約聖書の再解釈によるものなのです。 なぜならば、当のユダヤ教のみならず、キリスト教から見ればずっと若輩の、 しかし確実に同じ創世記を継承しているイスラム教でさえ、 キリスト教にあるような「原罪」という考え方はしません。 当然、イエスの死による罪のあがないなどは、何のことやらです。 ましてやこともあろうに神の子供を名乗るなどとは言語道断、 不届きの至極でとてもではないが容認できないというのが 伝統的なユダヤ教徒やイスラム教徒の認識でしょう。 (したがって、イスラム教においては、イエスは、 イザヤやエリヤなどと同列の一預言者の扱いになります) ――とまあ、こうしたことを書けばミッション系の学校では 確実に「落第点」になると思うので書かないほうが良いでしょう。

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