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安部公房の「棒」について質問です。

TANUHACHIの回答

  • TANUHACHI
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回答No.1

 こんにちは。安部公房の短編作品『棒』は1969年に発表された戯曲『棒になった男』を小説の形で再構成した作品です。さてこの作品に「登場する人物」はどの様に分けることができるでしょうか。  先ずは人物を登場順に従って列挙していきます(この段階では登場する意味を求めません。事務的に取り出すだけの作業です)。 (1)「私」、(2)「二人の子供」、(3)「人(付近にいる群衆もしくは雑踏)」、(4)「子供」、(5)「大人」、(6)「上の子供」、(7)「人々」、(8)「守衛」、(9)「いたずら小僧」、(10)「一人の学生(学生A)」、(11)「連れの学生(学生B)」、(12)「先生」、(13)「人(棒を使っていた或いは棒に関係のあった)」、(14)「誰か」、この14通りの人物が登場しますが、この中で(1)とそれ以外はどの様な関係にあるかを先ず考えてみましょう。  (1)の「私」は唐突に「棒」に姿を変えます。この時に一つの変化が生じます。むし暑い、ある六月の日曜日に腫れぼったくむくんだような街を見下ろしていた「私」が、「見られる側(棒)」へと立場を変化させます。同時にこの作品のテーマである「ものが存在する意味」が読者に対して問われ始める形です。  学生Aは棒である私をしげしげと観察し、それが「元々はどの様な形で存在していたのか」を形状から想像し、人から邪険に使われていて、それでも誠実で単純な心をもっていたためにそうなったと説明します。  これに対し学生Bは「ぜんぜん無能な存在だった」と説明する。Aが「棒」を意思ある主体的な存在と理解していることに対し、Bは「もの=道具」として理解する。  そして二人の学生の「議論」を先生は「ものの本質をどうとらえるか」の問題であるとして「君たちは、同じことを違った表現でいっているのにすぎないのさ。」と説明します。  作品では「私」が「なるべくして棒になったのか」「棒にしかなれなかったのか」は描かれてはいません。それはこの作品を目にする読者それぞれによって解釈に幅があるからであり、私が突然にして棒になってしまったいきさつを一言として描いていないのはそうした理由によります。  さて、ここで最初の問題に立ち戻ってみますと、どのような答をすることが可能でしょう。(1)とそれ以外の「関係」の問題です。多勢の人間がいる中で、個人としての私はどのような存在であるかを、この作品に使われている言葉で説明するならば、それが「いや、この人たちが全部、棒になるというわけではない。棒がありふれているというのは、量的な意味よりも、むしろ質的な意味でいっているのだ。」との部分に記されているとの結論になります。  世の中には「棒」など幾らでもあります。同時に「人」も大勢います。この作品で問う「本質」とは、この両者に共通する「ある」という事実に他なりません。それが「ある」ということは、何らかの「存在理由」があって存在していることだけであり(学生AとBの議論での前提要件)、それと他者との関係は更に別問題であるとのことになります。  文学作品ですから多様な解釈が可能であり、殊に安部公房の作品はF.カフカやS.ベケットなどの不条理文学をはじめキルケゴールやハイデガーなど実存哲学に象徴される「疎外と孤独」や「実存としての人間存在の根源的な問い」の影響を受け、内包しています。  もし質問者様の問いが高校の試験や受験問題として出されたならば、それはいささか不適切な設問であるともいえますが、学部のレポートならばかなり質の高い問題ともいえます。

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