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文化の対義語が文明?

ghostbusterの回答

回答No.9

ブローデルの『文明の文法』という本の第一章には「語彙の変遷」と題して「文明」という言葉の定義が「文化」と対比しながら試みられています。 「文明(civilisation)と文化(cluture)。civilisation という語は、フランスから発してあっという間にヨーロッパをかけめぐった。それに同道したのが culture という語だった」(p.52 フェルナン・ブローデル『文明の文法 I 世界史講義』 松本雅弘訳 みすず書房) 日本語で「文明」と訳されている "civilisation" というフランス語が登場したのは比較的遅く18世紀のことで、印刷物に公式に登場したのは1756年、経済学者ヴィクトール・ミラボーの『人口論』です。 それに対して「文化」に当たる "culture" という語はギリシャ時代からあり、キケロの『トゥムスクルム叢談』には「哲学は魂の涵養(cultura)である」という使い方をされています。それが意味を変え、"civilisation"とほぼ同様の意味を持つものとなっていきました。 ところが時代が下るとともに、二つの語を区別する必要が生じてきます。というのも "civilisation" という語は「精神的価値」と「物質的価値」という両方の概念を含んだ用語だからです。 マルクスのいう「上部構造」と「下部構造」、人間が作りだしたものの中でも、学問や芸術と、道路や港を区別したい、と、さまざまな人が考えるようになります。そこで"civilisation" と "culture" がふたつに分かれてきたのです。 「つまり、一方が精神的なるものの尊厳を担い、他方が物質的なるものの俗悪を担うというように区別したいという欲求は、そこから生まれてくる。不幸だったのは、どのように区別すればよいのかということについて一致を見なかったことである。そうした区別は国によって違うだろうし、それどころか、同じ国であっても、時代によって、著者によって、違うだろう」(p.33-34) たとえばドイツでは「文明」は技術的知識とその実践を指すのに対し、「文化」は「精神」の役割を担い、はっきりとした区別をつける傾向にあります。一方、フランスやイギリス・アメリカではもう少し「文明」という語の意味合いは強く(そのためにそのちがいはあいまいで)、とくにフランスにあっては「文化」が「精神の生の個人的な全形式」であるのに対し、「文明」とは「集団的な諸価値をさす」ものであると考えられています。 一方、英語圏では、人類学者が未開社会を研究対象とするときに、「文明」とは異なる語が必要になってきた、という経緯があります。 「英語では、文明という語はふつう近代社会に関して用いられるからである。そこで彼らは、先進社会の「文明」と対立させて、原始「文化」というようになった。」(引用同) 以上のことをまとめると、 1.「文明」と「文化」という言葉は、「文明」という語が登場してきて以降しばらくは、ほぼ同じ意味であったが、その後、さまざまな局面で対義語として用いられるようになった。 2.その対義関係は、国、時代、人によって異なる。 さらに日本では「文化」も「文明」もともに明治時代に「訳語」として日本語になった新しい言葉ですが、このふたつが受け持つ領域のちがいは、ドイツの影響を強く受けていると言えるかもしれません。 ですから「科学文明」というときの「文明」が「物質的所産」をさし、「平安文化」というときの「文化」が「精神的所産」をさしている、というふうに考えるなら、「文明」と「文化」は対義関係にあると言えるでしょう。

otuba
質問者

補足

回答、ありがとうございます。 言葉の歴史的な文脈がよくわかりました。 個人的には「文化」と「文明」の言葉はうまく漢字を当てはめているなと感心するのですが、 言葉に囚われて、本質を見逃してしまう危険もありますね。 そんなとき、言葉の起源を辿ることの重要性は大いにあると思います。 二つの言葉は、civilize、cultivateから派生しているとすると、やはりニュアンスが違うように思えます。 civilizeは、教育という全体的なものの作用。 cultivateは、教養という個人的なものの作用と考えられるのではないでしょうか? NO.6の回答にある 「文化と文明を対比させる文脈においては、 思想、芸術、習慣、情操などを文化、 道具、技術、制度、演算などを文明にしていると思います。」 というのも、そういった対立軸で説明できるのではないでしょうか? とはいえ、市民化(civilization)と文明は、違う概念に思えますね。 参考 civilize 1〈民族などを〉文明化する,教化する. 2〈人などを〉洗練する; 礼儀正しくさせる. cultivate 1 a〈土地を〉耕す,耕作する. b〈栽培中の作物を〉中耕する. 2 a〈作物を〉栽培する. b〈魚・カキなどを〉養殖する. c〈細菌を〉培養する. 3 a〈才能・品性・習慣などを〉養う,磨く,洗練する. b〈文学・技芸を〉修める,錬磨する. c〈人を〉教化する,啓発する; 〈人に〉教養をつける. d〈芸術・学術などを〉奨励する,〈…の〉発達に努める. 4 a〈知己・交際を〉求める,深める. b〈人と〉親しくなろうとする,交際を求める.

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