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ショットキーダイオードについて
ショットキーダイオードの原理や仕組みを教えてください。また、このようなことが書いてあるサイトや参考文献などがありましたら教えていただきたいのですが。よろしくお願いします。
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ショットキーダイオードのご質問をされたということで、hashimanさんは半導体の基礎知識をお持ちの方かと拝察いたします。半導体にバンドギャップが存在すること、半導体にp型n型があることについてはご存じで、初歩の統計力学や半導体の動作説明に使われるバンドダイヤグラムについても理解されていることを前提にお答えしたいと思います。(逆に、それが分かっていないとショットキーダイオードの原理を理解するのは難しいです) ダイオードにはP型半導体とN型半導体を接合した「PN接合ダイオード」があることはご存じかと思います。P→Nの向きに電流は流れますが逆には流れません。(電子の流れとしてはN→Pですね) これを「整流作用」というのもご承知かと思います。 これに対し金属と半導体を接合した「ショットキーダイオード(Schottky diode)」というものもあります(Schottkyというのは人名で、半導体物理の研究者です)。半導体と金属を接合しても同様に整流作用が得られるのですが、ではどうして整流作用が得られるのでしょうか? ちょうど手ごろなページ[1]がありましたのでご覧ください。このページの一番最後の図が、PN接合および金属-半導体接合のバンドダイヤグラムです。 その図の中列一番下の図は、金属と半導体(N型)が離れて存在している場合のバンドダイヤグラムです。それぞれの物質内においてバンドダイヤグラムは平坦で、またFermi準位は一致していません。金属と半導体(N型)をだんだんと近付けて接合してみたらどうなるでしょうか? (*1) 中列上から2番目の「平衡」と書かれた図が接合した直後のバンドダイヤグラムです。金属と半導体を接合するとFermi準位の高い側から低い側へ一部の電子が移り、界面に空間電荷層(バンドダイヤグラムが斜めになっている部分)をつくります。ここでは自由電子が大多数出払ってしまい、イオン化したドナーのみが残って空間電荷になっています。空間電荷層ができることにより全体のFermi準位が等しくなります。 さて平衡に達した状態で、半導体側に存在する自由電子(下図では●で表現)が金属側に拡散するためにはエネルギー障壁φ0を乗り越えなくてはなりません。一方金属側の電子が半導体側に拡散するにはエネルギー障壁φ1を乗り越えなければなりません。それぞれ乗り越えるべきエネルギーの大きさが異なる点に注意してください。 乗り越えられる確率は、乗り越えるべきエネルギー障壁の高さをφとしてexp(-qφ/kT)に比例します。kはBoltzmann定数、Tは絶対温度、qは電荷素量です。 平衡ですから正味の(差し引きの)電子の流れは存在しません。金属では「電子はたくさんいるが」×「乗り越えるのが大変」、半導体では「乗り越えるのは比較的容易だが」×「電子の数が少ない」で平衡になっているのです。 エネルギー障壁 ↓ ↑ ┃\ ↑ | ┃ \ φ0 φ1 ┃ \_●_↓ | ┃ 半導体側 ●↓ ┃ ━━━┛ 金属側 さて今度は金属と半導体の間に電圧Vをかけてみます。 中列、上から3段目が順バイアス(金属が正、半導体が負)をかけた場合の図です。伝導帯(の底)が順バイアスのために上がっています。この時のバンドダイヤグラムを詳しく描くと以下のようになります。 ↑ ┃\ ↑ | ┃ \_●_↓φ0-V φ1 ┃ | ┃ 半導体側 ●↓ ┃ ━━━┛ →x 金属側 金属側の電子が半導体側に拡散する際のエネルギー障壁φ1は不変ですが、半導体側から金属側に電子が拡散する際のエネルギー障壁は小さくなりました(φ0-V)。同時に空間電荷層の厚さも薄くなります。 この2つの効果により半導体側から金属側に移る電子の数は平衡状態より多くなり、一方で金属側から半導体側へは平衡状態と変わりませんから、電子の流れを差し引きしますと「半導体→金属」に電子の流れが生じることになります。電流の向きとしては「金属→電子」になります。 逆バイアス(金属が負、半導体が正)をかけると以下のようになります。 ↑ ┃\ ↑ | ┃ \ φ0-V φ1 ┃ \ | | ┃ \_●_↓ ●↓ ┃ 半導体側 ━━━┛ 金属側 この場合は平衡状態と比較すると、金属側から半導体側への電子の流れは不変で、一方で半導体側から金属側への電子の流れは減ります。全体として差し引きで、電子は金属側から半導体側に流れることになります。電流の向きがその逆であることは言うまでもありません。 「ちょっと待って、それじゃ単に印加電圧の向きに応じて電流が流れるだけで、整流作用はないことになるんじゃないの?」 ごもっともです。上記は定性的なお話でしたが、整流作用を説明するためには定量的に考えてみる必要があります。 空間電荷層での電界をEで一定、空間電荷層の厚みをd、半導体中での電子の移動度をμ、半導体-金属界面でエネルギー障壁より高い準位に位置する電子密度をn0、半導体中の電子密度をnsとします。また界面をx=0にとります。 空間電荷層内で、単位面積を通過する電流は i=qμnE-μkT(dn/dx) (1) で表されます。nは位置xの関数で電子の密度を表します。 iやEはxに依存しませんのでこの方程式はすぐに積分することができます。x=0でn=n0、x=dでn=nsの境界条件を使うと n0 exp{qEd/(kT)}-ns i=qμE-------------------- (2) exp{qEd/(kT)}-1 を得ます。 障壁φ0-V=Edがある程度高い、すなわちqEd>>kTとすると i=qμE[n0-ns exp{-qEd/(kT)}] (3) と近似できます。 印加電圧Vがゼロで電流が流れない、すなわちφ0-Ed=0でi=0の条件を使うと n0=ns exp{-qφ0/(kT)} (4) の関係を得ます。電位差φの高低2つの準位が平衡しているとき、その電子密度の比は1:exp{qφ/(kT)}になるというごく自然な結果です。 これを改めて(3)に代入すると i=qμ ns{(φ0-V)/d}×exp{-qφ0/(kT)}×[1-exp{qV/(kT)}] (5) を得ます。 (5)式でVは(φ0-V)とexp{qV/(kT)}の2個所に入っていますが、Vに対する値の変化は指数関数の方がずっと速いですから、iの挙動はほとんど[1-exp{qV/(kT)}]の部分で支配されることになります。 Vを正の値で大きくすると、exp{qV/(kT)}が急速に大きくなるために電流iも急激に増します。(ただしiは負となることに注意) 一方Vを負の値で大きくすると[1-exp{qV/(kT)}]は速やかに1に漸近します。ですから逆方向の場合は電圧をいくら大きくしても電流はほとんど増えないということになります。 これがショットキー接合の整流作用であり、ショットキーダイオードの原理ということになります。 この辺の話は、半導体物理の基礎の本には大抵出ていると思います。「電子デバイスの基礎」「半導体物性」「半導体基礎理論」といった感じのタイトルの本を、大学の図書館などで探してみてください。 なおこれらの本では「ショットキーダイオード」より、「ショットキー接合」「ショットキーバリア」のキーワードで出ていることが多いですから、本をめくる際に留意しておくととよいです。 [1] http://hl.pc.uec.ac.jp/~hays/electronics/lecture/chapter3.htm *1 原子レベルで平坦かつ清浄な表面を作るのは実際には不可能ですので、思考実験だと思って下さい。