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NMRにおけるスピンスピン結合について
NMRにおける、等価な核間のスピンスピン結合に関する質問です。1H-NMRにおいて、メタン1Hがシングレット1本として現われる理由を教えて下さい。あるいは、いいテキストがあったら教えて下さい。 先日J=0になると書いてある教科書を見て混乱しました。AB系のスペクトルパターンの説明の延長で「等価な核間ではJ値は原理的に存在するが、収束するシグナル(中心周波数のシングレット)以外の相対強度が0になるためスペクトル上に分裂ピークが現れない」のだと思っていました。
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> メチル基CH3ではなく、メタンCH4です。 あっ、ごめんなさい。また早とちり回答をしてしまいました。 「高分解能NMR:東京化学同人」をすぐには確認できそうになかったので、googleで"High Resolution NMR: Theory and Chemical Applications"を検索してみたところ、版が違いますけど、記載箇所と思われるページをプレビューすることができました。第三版の158ページです。 For example, CH4, which has four magnetically equivalent protons, gives a single proton resonance line; but CH3D dose not, because ... との記述があり、段落の最後の文は When all coupled nuclei in a molecule are chemically equivalent, they are also magnetically equivalent, as they are equally coupled (J = 0) to all other nuclei. となっています。文法的にどうなのよって問い詰められると自信がないのですけど、私は "as they are ..." を「あたかも結合していない(J = 0)かのように見える」と解釈しました。 メタン CH4 ですと、すべての核間のJがもともと同じ値なので、確かにこの記述は分かりにくいです。エチレン C2H4 で説明すると、C2H4 には、ジェミナルのJ、シスのJ、トランスのJと、本来三種類のスピン結合があるはずなのに、化学シフトが全部同じなので、"J = 0で equally couple" しているように見えるよ、と言っているのではないでしょうか。 > 「メチル水素間のJ値の分子軌道法を使った理論的な計算」が書いてある教科書か論文 教科書としては「三訂 量子化学入門(下) / 米沢貞次郎ほか著(化学同人)」の第12章の5-5節「核スピン結合定数」771~782ページが参考になるかと思います。が、数式に誤植が多いのと、古い本なので古い計算結果しか載っていないのが欠点です。 いまは、Gaussian 03 という分子軌道計算ソフトを使えば、理論の専門家でなくてもスピンスピン結合定数が気軽に計算できます。 http://www.hpc.co.jp/hit/solution/gaussian_help/k_nmr.htm 比較的最近の計算結果は Gaussian 03 の参考文献にある T. Helgaker, M. Watson, and N. C. Handy, J. Chem. Phys. 113, 9402-9409 (2000). V. Sychrovsky, J. Grafenstein, and D. Cremer, J. Chem. Phys. 113, 3530-3547 (2000). に載っています。
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確認なのですけど、メタン CH4 ではなくてメチル基 CH3 ですよね。以下は、メチル基についての話です。 > AB系のスペクトルパターンの説明の延長で > (中略) スペクトル上に分裂ピークが現れない ほぼ完璧な説明だと思います。この理解でまったく問題ないです。 3スピン系でも、計算が(強烈に)複雑になるだけで、同じと考えていいです。 > 先日J=0になると書いてある教科書を見て混乱しました。 等価な核間のJ値がゼロになるというのは、あくまで便宜的なもの、スペクトルの上だけのものです。「スピンスピン結合が見られない」というのは「スピンスピン結合がないから見えない」のではなくて、「スピンスピン結合があるけど見えない」ということです。そして、スペクトル上でスピンスピン結合が見えないなら、スピンスピン結合していないのと同じことだろう、つまり等価な核間のJ値をゼロと考えてもスペクトル解釈には問題なかろう、ということです。 実際のところ、メチル水素間のJ値は、分子軌道法を使って理論的に計算することができます。計算される値は、非等価メチレン水素間のJ値の実験値と同じくらいになります。 実験的には、間接的な方法になりますけど、非常に簡単に測定できます。NMR溶媒に微量に含まれる、CD3COCD2HやCD2HCNのプロトンの5重線がそれです。この分裂幅にプロトンと重水素の核磁気回転比の比(γH/γD=6.52)を掛けるとメチルプロトン間のJ値になります。
お礼
有難うございます!非常に参考になりました。 「高分解能NMR:東京化学同人」第7章に記載されていたのは、メチル基CH3ではなく、メタンCH4です。「分子中で、すべての結合した原子が化学的に等価」な場合にJ=0となっています。この文章だけだと、CH4にのみ成り立つのか、その他当てはまる分子があるなら何か(例えばネオペンタンはどうかと思いましたが、メチル基になった時点で当てはまらない気もします)がよく分からないので、J=0を導くに至ったもとの計算式を辿るしかないと思って質問を投稿させて頂きました。ただし、この本の原著を見ていないので、日本語訳になった時点で微妙にニュアンスの違いが出ていて、私が何か勘違いしているのかもしれません。 お忙しい所大変恐縮ですが、ご回答頂いた中の、「メチル水素間のJ値の分子軌道法を使った理論的な計算」が書いてある教科書か論文など、参考になるものを教えて頂けると非常に助かります。お時間のあるときで結構ですので、よろしくお願い致します。
通常「対称操作によって重なり合う原子のピーク間にはスピン-スピン結合が見られない」とされています。 が、殆どの方は(私もン十年関わっているが)それが量子論的に(ブロッホの方程式など)どの様に導かれるか「知りません」 なので、NMRの研究をされる機会が無いと思われましたら、全て忘れて「自由回転できるメチル基はシングレットになる」と覚えていて下さい。 「自由回転できるジメチルアミノ基の二つのメチルは一つしか見えない」なんて言うのもありますが、この場合は温度を下げて自由回転が止まるときれいに二本に分かれます。
お礼
お忙しい中、ご回答ありがとうございます。先生は、丁寧なご意見を下さった最初の方です。 上述の教科書とは、具体的には「高分解能NMR:東京化学同人」です。第7章に、AB系の遷移と周波数、シグナル強度に関する計算が詳細に出ています。これらの式で「等価な核間では、スピンスピン結合による分裂がスペクトル上に現れない」理由の一部は説明できる事になっています。即ち、質問欄に書いた「等価な核間ではJ値は原理的に存在するが、収束するシグナル以外の相対強度が0になるためスペクトル上に分裂ピークが現れない」事の証明になります。しかしながら、これらの式は、「2つの核がスピンスピン結合している、すなわち、J値が存在する」と仮定する事を前提に成り立っているので、矛盾を感じて困っていたといういきさつです。これでは、化学的に等価になった核どうしはそもそも本当にスピン結合しているのか、J値がゼロになるせいで見えないのか、J値はゼロにはならないが強度の関係でスペクトル上に現れないだけのか分かりません。スペクトルに現れなくても、J値が存在するなら理論的に計算できる方法があるはずですが、ここでは述べられていません。さらに、ここまで2つの核間の計算しかしていないのに、いきなりメタンのJ値が0と記載されており、余計に混乱してしまいました。実際3つ以上の核間の計算は非常に難しいだろうと想像しています。。 私はこの様な数学、物理の計算は苦手なので、何か勘違いしているのかも知れません。もっと勉強してみます。 どうもありがとうございました。
お礼
ありがとうございます。 こんなに色々教えていただきまして、大変お時間をとらせてしまいました。メタンの記述は正にどんぴしゃの部分だと思います。仰るとおりの解釈だと思います。早速その他の教えていただいた参考文献を勉強します。きっとそこで分からない所が出てくると思うので、恐縮ですがまた質問させて頂くかもしれません。 とり急ぎお礼申し上げます。ありがとうございました。