裸とセックスアピール

質問

人類学の項目がなかったのでこちらに質問させていただきます。
未開民族の中にはブラジャーをしていない女性がいるようですが、男たちにとって胸はセックスアピールにならないのでしょうか？

回答No.4

aster

これは、正面から考察すると非常に難しい問題になって来て、色々な学説や仮説が交錯しています。できるだけ簡潔に問題を眺めてみます。

人間は、常に発情状態にある動物だと言われ、確かに他の動物は、それぞれ発情期や交尾期が決まっていて、人間だけが、（可能性として）何時でも性的行為を行う準備ができています。

これは人間の性的行為の一つの特色なのですが、こういったことについて考察していると、問題が錯綜します。とりあえず、人間の性的行為や性的興奮を励起する機構には、三つの階層的な要素が関係し、それらが相互に作用し合っているということがあります。

第一は、人間も動物ですから、動物としての行為の様式や感情・意識の変化があります。第二に、人間は社会的生物で、「文化」にその心理や行為規範が規定されています。このことは、また人間が未成熟で生まれてきて、後天的に色々なことを学習するのだという特徴とも関係あります。

そして第三に人間は、動物一般に較べ、格段に個体性、個性というものが発達しています。動物でも、行動・心理で個体差がありますが、人間の場合、心理が非常に複雑かつ微妙で、この心理の複雑さが行動にも影響してきます。

性的行為とか、性的興奮というのは、一種の「文化現象」であるとも人間の場合言えるのです。それは、生殖の本能的パターンにも規定されていますし、文化の規定によってもヴァリエーションを持ち、更に、文化のなかの個人の心理構造にも規定されます。

フェティッシュというのは、フロイト的には、性的リビドーの対象固着ですが、もっと文化的なもので、更に、個人心理とまさに関係します。フェティッシュと密接に関係するのは、社会の「禁忌」や行為・心理「規範」です。こういった問題は、広義の自我心理学を軸に、社会や文化や対人関係などと連関させて展望せねばならないものですが、ここでは、そういう事実だけにします。

簡単に言いますと、未開人の女性、あるいは、暑い地域の少し前の非西欧社会の女性は、必ずしも胸を隠していなかったということがあります。しかし、「隠していなかった」ということは、それが、男性に性的興奮を誘起させないということではないのです。

フェティッシュと密接に関係するのですが、性的興奮に陥ると、男性でも女性でも、普段は何でもなかったことが、違った意味や感情的誘因、迫力を持って現れてくるということがあります。髪の毛を隠す文化もありますが、多くの文化で、髪の毛（頭髪）は、必ずしも隠しません。

しかし、性的に興奮すると、文化や個人の心理形成によって異なりますが、頭髪の髪の毛が、非常に性的に興奮を誘発させるものとなります。このことはよく知られていることです。「髪は女性のいのちである」というのがありますが、ナルシシズム心理も関わっていますが、髪の毛はフェティッシュであるのです。

しかし、一般に、日常的には、髪の毛を見ても、男性も女性も普通には性的には興奮しません。しかし、髪の毛が「セックスアピール」になっているのは事実です。

バストの方は、暑くない地域では、寒いこともあり、普通衣服で被っています。そのため、普段、眼にしないので、男性は（そして女性自身も）、隠されたバストにフェティッシュを感じ、それを見ると性的興奮が起こり、想像しても性的に誘起されるので、これが大きな「セックスアピール」になります。

文化によって「胸は見せない」という場合と、西欧の近世フランスの上流の女性の衣装を見れば分かりますが、「胸を半分見せて、誇張的に示す」という場合があります。肩とか胸の上半分ほどが見えるような衣装がありました。

しかし、このような衣装や、それを着ている女性を見て、そう簡単に性的興奮の極に達するというのはなかったのです。「性的誘起・セックスアピール」ではあったのですが、文化的に、抑制がかかっていたと言えます。

未開の人や、ごく最近までの暑い地域の女性が胸をあらわにしていたとしても、それは、「隠す文化」に較べれば、確かに「性的誘起・セックスアピール」としての意味は、そのままでは少なかったでしょうが、「性的誘起」とか「セックスアピール」というのは、もっと総合的なものです。

フェティッシュで、特定のものに固着しているのは、むしろ例外なのです。個人によってヴァリエーションや強度の差があっても、非常に多様なものがフェティッシュになります。つまり、セックスアピールを持つと言うことです。

あらわな胸も、またほとんど裸身の場合も、それが社会において、文化的に常態であれば、性的誘起の意味は、それ単独では弱くなります。しかし、皆無になったのではないはずです。髪の毛は、性的誘起を持つのですが、イスラム教国でもない限り、普通、女性は髪をあらわにしています。

それでは髪にセックスアピールはないかと言えばあるのです。それと同様に、あらわなバストや、日常的な裸身であっても、セックスアピールはあり、ただ、それで性的興奮に至るのは、社会的禁忌、文化的なインプリンティングが禁止しているのだと考えられます。

色々な場合があると思いますが、バストを露出していても、例えば、何か独特な花を髪に付けているとか、綺麗な飾りを胸近くの肌に付けている、また、香りのする油を肌に塗っているなどの場合、「禁忌を乗り越えてＯＫ」というシグナルである可能性があります。

この時、普段に見慣れていた裸のバストが、にわかに別の意味を持ち、強い性的誘起を持ち、強力な「セックスアピール」を男性に対し発揮するのだということが言える場合があるでしょう。

文化により、個人により、個人人間関係により、非常に多様なヴァリエーションがあるので、一概にどうとは言えませんが、普段あらわにしているバストであっても、普段からセックスアピールになっており、ただ、それが性的誘起として強く働きかけるには、何かの文化的個人的条件が揃う必要があるということでしょう。

お礼

やはり人間てのは一筋縄ではいかない生物なのだなあと思ったのでした．
丁寧な御回答，ありがとうございました．