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日本の小説で、好きな書き出し、印象に残る冒頭等の作品を教えて下さい。

zephyrusの回答

  • zephyrus
  • ベストアンサー率41% (181/433)
回答No.4

夏目漱石はただ単に有名でよく読まれるという以上に、 書き出しからやはりうまかったと思います。  吾輩は猫である。名前はまだ無い。  どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。 という、「吾輩は猫である」のこのなんともそらっとぼけた感じ。また「草枕」の名文句、  山路を登りながら、こう考えた。  智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。 リズミカル。なるほどそうだ、いいことを言う、と膝を叩きたくなります。「坊っちゃん」の書き出しは、  親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。 得をした人間の話などうざったいが、損をした話なら聞きたくなります。「それから」は、  誰か慌たゞしく門前を馳けて行く足音がした時、代助の頭の中には、大きな俎下駄が空から、  ぶら下つてゐた。けれども、その俎下駄は、足音の遠退くに従つて、すうと頭から抜け出して  消えて仕舞つた。さうして眼が覚めた。  枕元を見ると、八重の椿が一輪畳の上に落ちてゐる。 馳けて行く下駄の音と八重の椿の鮮やかさは、この小説全体の主調音でしょう。 そのほか「道草」の、話の中心に直結する緊張した出だしなど、きりがないので漱石はこの辺で。  檻に囲まれた、あおみどろの池のうえで、黒鳥は小さく啼いた。(…)  痩せ細った指を檻にからませ、青年は、もう長い時間を、黒鳥に心を奪われていた。  はじめ見たときから、何かすばらしい変身の行われたことは察知できたが、さて、それが何なのか。(…)  『黒鳥ばかりではない、すべての水禽はある日"恥"の記憶だけを残してこんな形に変えられた』(…)  そこまで考えたとき、たまりかねた黒鳥は、がまんがならないという口調で、こう叫んだ。  「いったい、そこで何をしているんです」  青年は、みごとなくらい呆気にとられ、檻を掴んだまま唇をふるわせた。(…)  「返してくれよ、おれの金貨を」 長々と引用しました。しかも作者を冒涜するぶち切りで。(…)は省略箇所があることを示しています。 これは中井英夫「黒鳥譚」の出だし。安部公房がお好きなら、中井英夫もお気に召さないかと思って。 最後にもう一つ。吉田健一「金沢」はぶっきらぼうにこう始まります。  これは加賀の金沢である。尤もそれがこの話の舞台になると決める必要もないので、  ただ何となく思いがこの町を廻って展開することになるようなので初めにそのことを  断って置かなければならない。 金沢、と断定しておいて、すぐ曖昧化される。 小説におけるリアリティとは、作者の断定や読者の思い込みによって決まるのではなく、 小説の中でおのずと決定されてゆき厳然として存在しはじめる、 そういうものでなければならないという、これは作者の宣言、そして覚悟なのでしょうか。

5mildcaste
質問者

お礼

 ありがとうございます。夏目漱石の書き出しは私も秀逸と思います。『猫』『草枕』『ぼっちゃん』どれも書き手が主題を明確にモノにしている様が伝わってきて小気味良いですよね。日本ではこうした態度を嫌みに取る向きがあるかもしれませんが、私は好きです。中井英夫は聞いたことがありません(あ~無知が恥ずかしい)。安部公房が好きなら、と言われるとかなり気になってきました。吉田健一も初耳の名です。でも、これは面白いですね。素直というか露骨というか、そうとう苦労してたのか、開き直ったのか、作品そのものの世界に、作者の立場をモロに反映した書き出しと思いました。こうした試行錯誤や実験を試みる勇気ある物書きを、作品の善し悪し、好き嫌いを別にして注目したいものです。

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