• ベストアンサー

源氏物語の持つ意味ってなんでしょう?

amrthystの回答

  • amrthyst
  • ベストアンサー率50% (1/2)
回答No.6

源氏物語には、まず何といっても千年を超えて読み継がれてきた点だけを見ても、そこに極めて人間にとって洋の東西や文化の違い、時代をも凌駕する「普遍性」を宿しているという点だけでも素晴らしい価値があります。ホメロスの叙事詩やギリシャ神話は、基本的には男女間のもつれが戦争に発展したものですし、ゼウスなんて人間といわず女神といわず手をだしまくっています。エロス・タナトスというギリシャ由来の哲学原理がありますが、性=生命の基本的で最も重要な活動であり、それを抜きにして人間の生涯や文化を語ることがそもそもナンセンスです。恋愛や性愛の描写は、それが匂わせる程度のものから露骨なものまで「無いものを探す方が困難」ですし、「エロ小説」と、少なくとも訳文すら読みもしないで、決め付けている態度の方に問題があるのではないでしょうか。  もう一つは源氏物語に関して膨大な研究と視点が提示され、それだけ様々な観点から掘り下げられているという点に於いても、この女性の手になる物語が、光源氏という現実にはありえない一見完璧な存在を主人公としながら、非常に人間と人間同士がふれあい、共に生きていくうえでの苦悩や感情など、「生」そのものを奥深く、ある種非常に冷静に掘り下げ描いていて、それがかえって浮き彫りのリアリティで「人」とその奥深い精神世界・生命の姿を読者に伝えているからにでしょう。ユング・フロイト的観点からの分析も可能ですし、当時の最高レベルの知識・教養階層であった平安貴族たち、そして当時の日本人が持っていた仏教と神道をないまぜにした、宗教観や人生観の理解も重要です。人生50年以下の時代の話なのですから。  加えて、この物語は当時の平安貴族の知的レベルで読むためには、まず当時までの中国文化・歴史・漢詩・漢文の知識が必要です。次に記紀・万葉等の上代からの文化教養と日本の歴史。歴史的事件や神話的故事。それから当時の仏教・神道・陰陽道といったものから派生する、時間・地理・色などあらゆる事物に対する現代との視点の違いや慣習の違い。全編に詠まれる和歌には、こうした教養の土台がないとその真の意味や深い裏の意味を理解し得ないものばかりです。和歌一つも単に現代の詩人のように、自分の感情を吐露しているだけではないのです。源氏の君が須磨に半ば流刑のような形で流れていくのも、それは須磨・西国でなければならないのです。当時の人々にとって、神戸以西というのは、出雲文化圏であり、出雲を支配する大国主大神は冥界の支配者であり、西国というのは一種の死後世界的なイメージがあったのです。また仏教の西方浄土にも通じます。罪穢れを犯した人間は、西国に赴くことで「死に」罪科を冥界に洗い流してきて、さらに成長・パワーアップして「蘇える(黄泉かえる)」のです。源氏の君も須磨以降、栄華を極めていきます。また源氏の君の六条院という住まいの作りや庭木の配置など細部に渡って、陰陽道的な知識やそこから派生するエピソードが描かれています。源氏物語は別名を「紫の物語」「ゆかりの物語」とも呼ばれますが、紫という色が、非常に高貴で神聖な色であると同時に、淫らさや性愛・官能といった意味合いを当時から持つ色であること、赤と蒼の混合色であり、非常に染色技術上も不安定な色であることから、「ゆらぎの色・狭間の色」とも呼ばれていて、常に仏教的な厭世観と恋愛や母への思慕と言った聖俗の感情の間でゆらぐ源氏や紫の上と言った人物達、ひいては「人間」そのものの象徴色でもあるのです。「ゆかり」は紫の字をあてることもあり、高貴な血縁・血筋をも意味しています。こうした、非常に高度な知的レベルと教養が基礎知識にないと、理解できない内容が作品の土台ともなっているのが源氏物語なのです。当時の平安人・日本人がいかに、高度な知的レベルを「一般常識」として備えていたかを考えると、現在の文化・芸術とは比較にならない程の価値を備えた作品であると言えます。  こうした幾重にも重層的な内容と価値を持ち、また新たな読み方・観点をいまだに与え続ける作品は世界的に見ても極めて希少です。単純な善悪二元論的内容ではないからというのも大きな要因でしょう。  価値などというものは、結局は後世の人間が勝手につけているものに過ぎませんが、少なくともきちんと代表的な訳文だけでも読んでから、エロ小説か否かを判断してもらう方が早いと思います。現代の歌謡曲の方が、文章内容だけならよっぽど「エロ」だと思いますよ。

tarecolo
質問者

お礼

たくさんご回答いただいておりましてありがとうございます。 この場をお借りしてご回答くださった皆さんにお礼申し上げます。大変参考になりました。m(__)m

関連するQ&A

  • 源氏物語

    源氏物語よく世界最古の長編小説、とは言われますがそれは間違いとも聞きます。 世界最古の小説がどれなのか、また最古の長編小説はどれなのか教えてください。

  • 源氏物語五十四帖

    名刺のデザインに「源氏香之図」の図柄を印字しようと考えています。 そこで、「源氏物語五十四帖」のうち、縁起の良い、あるいは名刺に使用するのにふさわしいと思われるものを教えて頂きたいのですが。 源氏物語をはじめ、国文学についてはまったくの素人です。 どなたかご教授願いませんでしょうか。 よろしくお願いいたします

  • 『千年の恋 ひかる源氏物語』

    『千年の恋 ひかる源氏物語』にでてくる花散里役の方のお名前を教えてください。よろしくお願いします。

  • 紫式部と源氏物語について

    子供に聞かれて、意味のわからない事があります。 「紫式部は、なぜ源氏物語を書いたのか?」と聞いてきたのです。 国語(特に古い歴史や古文など)は全く苦手で、言っている意味が全然わかりませんでした。 後で子供に「どういう意味?」って聞いたのですが、「もういいよ」で済んでしまいました・・・。 授業の課題か何かで、そういう問題が出たのでしょうか? そもそも、紫式部が架空小説「源氏物語」を書きたいから書いた、だけの事ではないのでしょうか? なにか書いた理由など、歴史的な事や感情的な事があったのでしょうか? 歴史について無知なので全くわかりません。。。 「紫式部が書きたいから書いた」で済めばそれで良いのですが、子供の意味不明な質問が気になってしょうがないです(- -; 何も書いた意図が無ければ「無い」とか、何か書いた理由があれば、わかる方教えて下さい! ※ 子供が聞いてきた事なので何か理由があると思うのですが、質問しているこちらが全く意味がわかっていませんので、とんちんかんな質問であればそれも指摘願います(^-^;

  • 源氏物語に描かれている世界が嫌で、なじめない人いますか。

    文学も国語も大好きで、友人からは「暇さえあれば本を読んでいたね」と言われるくらいなのですが、いまだに源氏物語だけは、その描かれている世界が嫌で、なじめないでいます。 テストのためにしか近づく気になれないままにきてしまい、源氏ブームなどもあって「ちょっとまずいかも」と、ちらっと思うのですが、内容のすべてが受け入れられません。 大雑把なあらすじ程度しか知りませんから、このようなことを言うのもどうかとは思うのですが、同じように感じている人っていませんでしょうか。 偉大すぎる作品のことですので、いまさら身近な人にも聞けず、気になっています。

  • 名作とエロ作品の違い

    名作文学とエロ小説は、一体どう違うのでしょうかね? カーマ=ストラ・金瓶梅・紅楼夢・源氏物語・永井荷風や団和夫や谷崎潤一郎とかの作品は、きわどいすごいセックス描写がありますが、「名作文学作品」といわれ、学校の国語や歴史の教科書まで出てきます。 しかし、団鬼六先生をはじめ、スポーツ新聞やエロ雑誌の小説は、「エロ小説」で、学校で教えたら社会問題化することでしょう。 団鬼ロク先生の作品も、もしかしたら数百年後には、名作になるのでしょうか? 瀬戸内晴海(寂聴)の作品は、評価を受け、叙勲までされているのに、団先生は、「エロ作家」で、その作品は18禁のエロ変態作品です。 この違いは何でしょうか?

  • 世界最古の小説

    質問いたします。 世界最古の長編小説として「源氏物語」がありますが、 一世紀古代ローマで書かれたペトロヌスの風刺小説「サチュリコン」や 二世紀のアプレウスが書いた「黄金のロバ」は、なぜ世界最古ではないのでしょうか? 長編小説という定義に引っかかるのでしょうか? ご教示、お願いいたします。

  • お好きな長編小説を教えてください。

    長編小説が苦手で「源氏物語」と「ユリシーズ」しか読破しておりません。 「源氏物語」は所詮、宮廷を舞台にしたトレンディ・ドラマとしか思えませんでしたが 「ユリシーズ」は、ダブリンのさえない中年男のぱっとしない一日の空虚感を 様々な文体を駆使し、シニカルに描き切っていて腰が抜けました。 後、今「失われた時を求めて」の半分ぐらいですが 繊細で濃密な描写に圧倒されています。 他に上質な長編があれば教えてください。

  • 儒教の論語について質問です。

    論語の漫画やかなりわかりやすい論語の本をいくつか買って読んでみましたが、内容がつまらないと感じてしまいます。 難しいと言いますか、当たり前過ぎるといいますか。 時には孔子が言ってる意味が理解出来にくかったり。 恐らく文章は全く覚えていません! 私はストーリーがあり日本古典文学系(土佐日記や伊勢物語、源氏物語)や歴史(日本史&中国史)はすいすい頭に入りますが論語や中国古典(中国文学)だけは全くといっていい程覚えられません。(老子等も) 私には哲学が向いていないのでしょうか?それとも難しく解釈し過ぎている状態なのでしょうか?

  • 万葉集を読んでも翌日には忘れています。

    これは向かないのでしょうか?翌日には『昨夜は誰の歌を読んだんだっけ?』と全く覚えていません。 源氏物語や海外の文学作品ははじめからきちんとストーリー構成を覚えています。