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共役の長大=長波長シフト?
芳香族多環化合物で、π電子共役系が伸びることによってなぜHOMO-LUMO差が縮まるのかがわかりません。 π電子共役系が伸びるとUV吸収スペクトルの吸収極大は長波長シフトすることは実験的にわかります。そして、長波長シフトはHOMO-LUMO差が縮まることによって引き起こされることも理解できますが、なぜHOMO-LUMO差が縮まるのかがわかりません。 なるべく量子化学に踏み込まずに、単純に説明できる方がいらっしゃいましたらお願いします。
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例えば、水素原子二つから水素分子ができる場合、それぞれの電子軌道を 下図のように描いたと思います; E ↑ ─σ* ←軌道の重なりで生じた反結合性軌道 | / \ |1s─ ─1s ←軌道が重なる前のエネルギー準位 | \ / | ─σ ←軌道の重なりで生じた結合性軌道 | | Ha Hb (Ha、Hbはそれぞれ水素原子) π電子共役系でもこれと同様に考えると、感覚的に理解できるかもしれません。 まず、その共役系の4つの原子の、π結合にあずかる4つのp軌道について、 それぞれ2個同士で軌道の重なりを考えます; E ↑ ─ πab* ─ πcd* | / \ / \ | / \ / \ ┼ 2p─ ─2p 2p─ ─2p | \ / \ / | \ / \ / | ─ πab ─ πcd Ca Cb Cc Cd (Ca~Cdはそれぞれ炭素原子、πab・πab*はそれぞれCa・Cbのp軌道の 重なりで生じた結合性軌道・反結合性軌道。πcd・πcd*も同様) 次に、このπab・πab*とπcd・πcd*との間の軌道の重なりを考えます。 このとき、先程のp軌道同士の場合に比べると、軌道の重なりは小さいため、 エネルギー準位の分裂幅も小さくなります(因みに、重なり0→分裂幅0); _π4 E / \ ↑ πab* ─ ─ πcd* | \ / |  ̄π3 ┼ | _π2 | / \ | πab ─ ─ πcd | \ /  ̄π1 Ca Cb Cc Cd (元のp軌道は省略、そのエネルギー準位は左端の『┼』で表示) この結果、Ca~Cdの炭素上にπ1~π4の4つの軌道ができます。 元のp軌道よりエネルギー準位の低いπ1・π2が結合性軌道(π2がHOMO)、 高いπ3・π4が反結合性軌道(π3がLUMO)になります。 (軌道が重なると、「重なる前より安定な軌道」と「重なる前より不安定な軌道」が 生じますが、このように、必ずしもそれが「結合性軌道と反結合性軌道となる」 とは限りません;その前に大きな安定化を受けていれば、多少不安定化しても 結合性軌道のまま、と) このように考えれば、それぞれのHOMOとLUMOのエネルギー差は、CaとCbの2つの π電子系で生じた時に比べ、Ca~Cdの4つのπ電子系の方が小さくなることが 理解していただけるのではないかと思います。 <余談> このようにして共役系が延長していくと、軌道の重なりによる安定化幅はさらに小さく なっていくため、「軌道」というよりは「電子帯(バンド)」というべきものになります。 また、HOMO-LUMO間のエネルギー差も縮小し、常温で励起が起こるようになります。 これによって、芳香族ポリマーや黒鉛などは電導性が生じているわけです。
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補足します。 大事なことは「結合性π分子軌道が増える」ということです。そうしないとすべてのπ電子を収容することができないからです。 その際に、節面を持たないπ分子軌道も生じます。節面を持たないということは、共役系全体にわたってπ電子が非局在化することになりますので、その軌道は安定です。 しかし、そういった軌道は通常1個のみであり、それ以外の軌道は節面を有しています。 一般論として節面の多い軌道は不安定であり、長い共役形を有する分子の、数ある結合性π分子軌道の中には、比較的節面の数が多く、不安定なものも含まれているということです。 HOMOというのはもっともエネルギー順位の高い結合性軌道といえますので、安定な軌道とは無関係であり、上述の節面の多い、不安定な軌道に関する議論になります。 要するに、共役系が長くなると種々のエネルギー準位の結合性π分子軌道が生じるが、その中には比較的不安定なもの生じる。結果的に、共役系が短い場合に比べて不安定な軌道がHOMOになるということです。 LUMOについても逆の議論が成り立ち、比較的安定な軌道がLUMOになるということです。 なお、分子としても不安定化しますが、それはHOMOとLUMOの関係で反応性が高くなることによります。安定なπ分子軌道も存在しますが、通常、それらは反応に関与しません。
お礼
ありがとうございました。近いエネルギー準位の軌道が増える(準位の幅が広くなる)ということですね。
共役系が長くなるということはπ電子系が長くなるということです。 そうなるとπ電子の数も増え、結合性π分子軌道の数も多くなります。 一般に結合性π分子軌道は、軌道の位相が逆になる面(節面)が多くなるほど不安定になります。 π電子系が長いほど、節面の数や位置のバリエーションが増大しますので、そのなかに比較的不安定な結合性π分子軌道が生じてくることになります。 すなわち、共役系が長くなることによって、比較的節面が多く、不安定な結合性π分子軌道が生じることになり、結果的にHOMOのエネルギー準位が上昇することになります。 似たような理由でLUMOのエネルギー準位も低下し、HOMO-LUMO間のエネルギー差が小さくなります。
補足
回答ありがとうございます。 …ということは、π電子系が長くなるとより反結合性軌道に近い(エネルギー準位の高い)軌道による結合が増えることになり、つまり分子としては不安定化する傾向にあるのでしょうか? 感覚では共役系が伸びると安定化するような気がするのですが…。
お礼
噛み砕いた説明でとてもよくわかりました。どうもありがとうございました。