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NMR CW法について
NMRの訳本の中に遅い通過法という記述があります。 連続波法(CW法)のことだと思うのですが、どうして遅い通過法なのでしょうか?
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> 掃引速度を低くしすぎると現れる問題というのが気になるのですが、 > どういったことなのでしょうか。 測定にかかる時間が長くなりすぎる、ということです。 昭和42年発行の実験化学講座(続)12 核磁気共鳴吸収 の53ページに 「0.01c/sの掃引でもwiggleが相当残っている例が現れている。一方でNMR制御による磁場の安定化や装置の基準周波数の安定化が進んだため10^-3c/sでの掃引も可能になり始めている」 とあります(c/s=サイクル毎秒=Hz/s)。 掃引速度0.01Hz/sで1H-NMRスペクトル(スペクトル幅:10ppm)を60MHzの装置で測定するとしたら、測定に要する時間は 60MHz*10ppm/(0.01Hz/s)=(600Hz/0.01Hz)s=60000秒=16.7時間 になります。いまのFT-NMRでいえば、終夜積算コースですね。それでもウィグルが出る、つまり厳密には遅い通過にはなっていない場合があるということです。 私自身は、CW-NMRスペクトルを測定したことがなく、諸先輩がたが実際にどのくらいの掃引速度でルーチン測定をされていたのかを知らないのですけど、そこそこの測定時間でそこそこのスペクトルが測れるような掃引速度を使っていたのではないかと思います。
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- 101325
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連続波のつくる磁場の強さを B1, シグナルの横緩和時間を T2 としたとき、磁場を掃引する速さ dB0/dt が B1/T2 より十分に遅くないと、連続波法(CW法)で測定したNMRスペクトルは変調を受ける(平たくいえばスペクトルが歪む)ことが知られています。 この歪みを避けるためにCW法では掃引速度を低くして、dB0/dt << B1/T2 となるような遅い通過法でNMRスペクトルを測定します。ただし、実際には掃引速度を低くしすぎると別の問題が現れるので、遅い通過の条件は厳密には満たされていないことが多いです。そのため、たいていのCW-NMRスペクトルには、ウィグルと呼ばれる振動パターンがピークの右裾に現れます。 「遅い通過」とは反対に、 dB0/dt >> B1/T2 の条件を満たす「速い断熱通過(断熱高速通過,adiabatic fast passage,adiabatic rapid passage)」というものもあります。これについては、例えば引地先生のNMRノートの 3. 3 断熱通過 http://www.h6.dion.ne.jp/~k_folder/ をご覧下さい。ファラー・ベッカーやアブラガムなどの古典的な教科書にも「遅い通過」と「速い断熱通過」に関する記述があります。
お礼
101325さま 丁寧な解説ありがとうございました。 NMRノートも読んでみます。 掃引速度を低くしすぎると現れる問題というのが気になるのですが、 どういったことなのでしょうか。 もしお時間がありましたらよろしくお願いいたします。
お礼
101325さま 大変詳しく教えていただきありがとうございました。 たった1つの質問で10を教えていただいた感じで本当に感謝しています。 実験化学講座も読み勉強させていただきます。 CW-NMRは実際に稼動しているのかも気になりますが、 もうないのでしょうね。 では失礼いたします。