青銅器の最初期の使用は、現時点では前王朝期のエジプト、ウェセックス文化期のイギリス南西部、初期キクラデス文化期のエーゲ海域、およびメソポタミア・アナトリア一帯、いずれも前4000年~前3000年前後の時代に各地で起こったと考えられています。
青銅は銅とスズの化合物ですが、このような合金化(精錬)の過程で出るスラグと呼ばれる堆積物が確認される最古の事例のひとつとしては、前3500年頃のヨーロッパ(ナヴァツカ=クプリヤ)で発見されたものが挙げられます。ただしこれは銅に砒素が多少混入している程度のもので、この時代に青銅器が精錬されたと考えるよりは移行期の産物であるとみなしたほうがいいように思います。10%前後の最適な比率でスズが混合されたいわゆる「青銅器」が登場するのは前3000年以降のことです。これらの青銅加工物では、スラグを除けば短刀や斧のような製品が初期の段階から見られます。最も古い鋳型にはアイルランドのバリィグリッシーンから見つかったものがあり、これは石製の青銅斧型でした。
青銅精錬の技術はアジア南西部から東西へ広がり、前2500年ごろにはインド(モヘンジョ=ダロなど)へも伝播します。中国では独自に精錬技法が発明されたとする説もあり、ここでは最初の青銅製品が確認されるのはホウトン文化から三星堆文化へ移行する前2000年頃の華南においてです。
青銅より古くから加工された金属物としては銅と鉛が挙げられ、特に銅は自然銅を鍛造することで古くから様々な製品が製作され使用されました。加工した銅製品の最古の事例は前8500年頃のイラクや前8000年頃のアナトリアで確認されます。斧や鏃のような武器のほか、ビーズのような装飾品も作られていました。精錬銅が出現するのは前6000年頃のアジア西部で、なかでもアナトリアのチャタル=ヒュユクは自然銅を加工した装飾品のほか、恐らくは精錬の過程で生まれたスラグが見つかったことで知られます。鉛製品はこれよりやや遅く、前6000年頃のメソポタミア(ヤリム=テペ)で腕輪が、同時代のジャルモからも鉛のビーズが発見されています。
話は前後しますが、銅の冶金技術は前6000年頃から前3000年頃にかけて緩やかに発展し、青銅精錬の技術もこの過程で発明されたと考えられています。
また、下の方は多くの地域で長らく使われてきた3時代区分を紹介されていますが、メソポタミアや地中海域などの最近の編年学では新石器時代と青銅器時代の間に「銅石器時代(Chalcolithic)」を挿入するのが一般的です。大まかには前5000年頃から前3500年頃までを指します。
古代の遺物の年代決定や加工技術の発展に関しては
ジョーゼフ・B・ランバート『遺物は語る 化学が解く古代の謎』青土社、1999年
が比較的読みやすいでしょう。興味がありましたら是非ご一読ください。