「ウレタンバンパー」、より正確には「ポリウレタンバンパー」の事ですね。
元々これは1974年からアメリカのFMVSS(Federal Motor Vehicle Safety Standard-連邦自動車安全規制)の208条で要求された「時速5マイル(約8km/h)以内での単独衝突において、ボディにダメージを与えずにエネルギィを吸収し、また自身も復元する衝撃吸収装置を装備する事」という趣旨の内容に応じるために採用された衝撃吸収バンパーの一種ですね。
ところがこの時のほとんどのクルマは(当たり前の事ですが)ボディ側にそんな対応はされておらず、バンパー単独で時速8マイルの衝撃を吸収しなければなりませんでした。
そのためまずバンパー自体に強固なリーインフォースを組み込み、更に後ろにショックアブソーバーを付けてその収縮によってエネルギィを吸収する仕掛けを取ったものが多かったのです。そのためバンパーがボディからそのストロークの分だけ大きく飛び出す事になりました。
またこのバンパーの重量は非常に重いものとなり、車種によっては(これ以外のボディ補強分も含めてですが)100キロ以上も車重が増加する事になりました。
余談ですが、この事と同時に施行された排気ガス規制によるエンジン出力の低下の相乗効果で、この当時の自動車の動力性能は目を覆うほど低下しました。
さて問題はこの新たに追加されたゴツいバンパーを、既存のボディとどうデザイン上整合させるかでした。
初代セリカ最終型などはメッキされた鋼板のままだったもので、ボディからはひどく飛び出すわ、元々ボディと一体化されたバンパー・デザインだった初代セリカのデザインは台無しになるわと、散々でした。
通称「ビッグ・バンパー」のポルシェ911もこうした経緯から生まれたデザインで、元々シャープな形状のノーズはバンパー自体のボディカラー化も合わせてうまく全体のデザインと融合が取れ、更にバンパーの衝撃吸収のためのストロークがジャバラ状のピースで視覚上も表現されるという、この時期のクルマとしては画期的に高度なデザインがなされていました。
その中で英国のMGB/MGミジェットなどは60年代初期のボディ・スタイリングに融合させるためにバンパー全体をノーズ・ピース状に成型して取り付けました。その成型のためにポリウレタン樹脂が用いられました。これがカーグラフィック誌などで「ウレタンバンパー」と呼ばれました。
色が黒かったのは材料着色(通称「材着」)のためですが、塗装は可能です。つまりボディ同色にも出来た訳なのですがそうしなかったのはコスト低減のためと、そうしてみても所詮60年代のボディ・デザインには水と油の印象は拭えず、それならいっそ黒の方が良い(カリフォルニアなどには元々虫汚れ防止のためノーズ全体をカバーする「ノーズ・ブラジャー」なる用品があり、それをファッションとしてスタイリングに取り入れたと思われます)という判断があったのではないかと思われます。
現在のクルマでは衝撃吸収自体をバンパーだけではなくボディ全体で行う構造なのと、デザイン上バンパーをボディに馴染ませたものが多いため、ほとんどがボディカラーに塗装されています。
しかし中にはフォードの初代Kaのように材着のままで成立するデザインとしているクルマも(稀ではありますが)存在しています。
お礼
お詳しいですね! 歴史を含め、大変勉強になりました。 ありがとうございます。