a corner か the cornerか
「その男の子は罰として教室の隅に立たされた」という英作文のネイティブチェックから端を発した問題提起です。
A: The boy was made to stand, as punishment, in a corner of the classroom.
B: The boy was made to stand, as punishment, in the corner of the classroom.
教室の隅は4つあるわけだからin a corner of the classroomとなりそうなものです。実際、それで(文法的には)問題はないと思われます。ところが、ネイティブによればin the corner of the classroomも使われていて、この方が普通の表現だとのことです。グーグルで検索してみても、in a corner of the classroomはかなりの数でヒットしますが、in the corner of the classroomのヒット数はそれより多いです。(形容詞句の場合を排除するためにstand を前につけて検索しました。)
ネイティブによってはどちらでもよいという人もいますが、in the corner of the classroomだけを使うようにすすめる人の方もいます。なぜtheを使うのか聞くと、それは知らないとか、イディオムだからとか、教室内で罰として立たされるな場合はどの隅に立つのか決めてあるからだという人もいました。
そこで、なぜ定冠詞がつくのか、そしてその方が多いのかということを考察したいと思います。まず、私の考えを提示しますから、お読みになってこれはおかしいと思うことがあれば指摘してください。
始めに、<教室内で罰として立たされるな場合はどの隅に立つのか決めてある>という説は参考意見に留めたいと思います。どの先生もそのような同一のルールを持っているとは考えにくいことです。
私がヒントにしたのは、前回の質問投稿<部位カテゴリー間の限定は弱い限定か>で取り上げた部位の表現です。
C: He took me by the arm. において、armは2つあるものなのにaはつきません。また、どちらかの腕を特定したわけでもないのにtheがつきます。
これは、人間の体を構成する部位は概念的なものであって実物を表しているわけではないことと、armは部位を構成するデフォルト要素(もともと存在する典型的な要素)なので定冠詞がつくということによるものでした。Aの文がCの部位表現と同一の性質のものかどうか、パラレルに分析できるものかどうかは断言はできませんが、少なくともヒントにはなりそうな気がします。(教室内のside, center, corner, front, backは人間の身体の部位に相当するような気がします。)
Cにおいてthe armが使われたということは、実物のarmには関心が向かわずに、部位(概念)としてのarmに注目したかったからだと思います。この場合、実物としてのarmは二つとも同形(対称形)でかつ同じ働きを行います。
corner of the classroomにおけるcornerも同様です。4つしかなくて、そのことは誰もが知っています。4つとも同形です。働きも同じです。
classroom内部の場所の集合を構成するものとしては、例えば{side, center, corner, front, back}をデフォルト要素と見なすことができると思います。だとすればcornerにはtheがつくはずです。この場合のcornerは非常に概念的な使われ方をしていると言えます。
そういうふうに考えずに、教室の4隅のうちの一つを表す(かつどの部分も特定されない)からaがつくというふうに考えれば、Aの文が言えます。その場合、a cornerはカテゴリーではなく実物です。
結局、「教室の隅に」と言うとき、隅が4つある(どれかに特に意識を集中させたわけではない)ことを意識すれば、あるいは実物を意識すれば不定冠詞がつくが、そうした意識がなくて、隅を概念的にとらえた(教室内の場所を構成するデフォルト要素ととらえた)場合はtheをつけるということだろうと思います。後者の考えの方が自然なのだろうと思います。Bの方がmore naturalだと言ったネイティブもいました。
では、なぜa corner of the classroomの方が使われ方が少ないのか(the corner of the classroomの方がより自然なのか)を考えてみます。一般に、不定冠詞が名詞につく時、その名詞は新情報を表します。主語や目的語や補語の位置だとその名詞が主題化されます。例えば、I saw a corner of the classroom. とかa corner of the classroom came in sight. とかだと、聞き手の関心はa cornerに、又は新情報としての文全体に向けられるので、普通は追加情報が必要です。例えば、次のような文を作ることができます(ネイティブによるチェックはまだです)。
Susie, one of the students, closed her eyes and thought of a corner of the classroom, which was beautifully adorned with Christmas ornaments. ここではa corner of the classroomに追加情報が付加されています。cornerは何かが存在する場所というより、飾り付けのための対象物ととらえられているように思います。
ところが、stand in a corner of the classroomの場合は場所を表す副詞句なので、通常は名詞が主題化されることはありません。追加情報が必要とされない、つまり新情報に対する追加情報は特に必要とされないと思います。というわけで、不定冠詞が使われにくいということはないはずです。
in a corner of the classroomにしても、in the corner of the classroomにしても、どちらも場所を表す副詞句なので情報構造という観点からは大した違いはないと思います。
(ただ、was made to stand, as punishment, の部分が新情報として主題化されているので、後続する副詞句にはできれば不定冠詞が現れてほしくないという心理が私の場合はあります。)
結論として、隅が4つあると意識されるより、概念的に<教室の隅>ととらえられることの方が自然なのではないかということになります。ご意見を伺いたいと思います。
(なお、議論を複雑なものにしないためにof以下の名詞句は定冠詞名詞に限定しました)
もう一つあります。もし、BとCがパラレルに扱えるものであるなら、共通点が指摘されるはずです。その一つとして、どちらもある上位概念の下位に位置する概念で構成されているということがあります。Bでは、classroom-cornerです。Cではbody-armです。armの場合は実物(外延)は2つですが、cornerの場合は4つです。
二つ目の共通点として指摘されるのは、実物が固定されている(勝手に移動したり、数が変化したりはしない)ことがあります。それゆえ、例えばa member of the committeeにおけるようにof the committeeに限定されていてもtheはつきません。a memberは脱会したり新規加入したりとかが随時行われます。というわけで、この2つの共通点によってBとCがパラレルに扱える、もっと言えば、Cの部位表現がBの範型になっているのではないかと思います。この考えでよろしいでしょうか。
なお、cornerは要素(実物)が4つのケースですが、実物が2つの場合もあります。end of the rope, bank of the river, side of the mountainなどです。「二項対立」形式が多いですね。cornerの場合も、もしかしたら、対角線的に向き合うcorner同士の「二項対立」なのではないかとこじつけることもできそうな気もします。
以上です。よろしくお願いします。