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n次元ベクトルの外積の定義

oodaikoの回答

  • oodaiko
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回答No.8

外積のことを詳しく書いていると、テンソル代数の教科書を書くようなはめになってしまうので、証明などは飛ばしていきます。 それでも準備だけでずいぶん長くなってしまったので、まだ途中ですがアップします。 より詳しく知りたければ先に挙げた本(スピヴァックの『多変数解析学』)などを御覧下さい。 ●外積 (1)テンソル まず「R^n上のk階テンソル」(kは自然数)と言うものを定義します。 R^nのk個のベクトルに対してRの要素を対応させる写像で、かつ各変数について線形であるようなもの(多重線形という)を「R^n上のk階テンソル」と呼びます。 もう少し数学的にきちんと定義しておくと、関数T:(R^n)^k → R であって、任意のi(1≦i≦k)、およびa,b∈Rに対して T(u_1,…,u_{i-1},a u_i + b v_i,u_{i+1},…,u_k)= a T(u_1,…,u_{i-1},u_i,u_{i+1},…,u_k)+b T(u_1,…,u_{i-1},v_i,u_{i+1},…,u_k) という条件を満たすものを「R^n上のk階テンソル」と呼びます。また便宜上実数は0階のテンソルと定義します。(もちろん0階のテンソルは引数を持ちませんから「R^n上の」という修飾語は必要ありません) 「R^n上のk階テンソル」全体の集合をT^k(R^n)と書いておきます。 さて、任意のS,T∈T^k(R^n)およびa,b∈Rに対して、和とスカラー倍を (aS+bT)(u_1,…,u_k)=aS(u_1,…,u_k)+bT(u_1,…,u_k) と定義すると、明らかにaS+bT∈T^k(R^n)です。そこでT^k(R^n)は体R上のベクトル空間と見なせます。零元は、すべての引数の組に対し0を対応させるようなk階テンソルです。 (2)テンソル積 次に、重要な演算として「テンソル積」というものを定義します。 S∈T^k(R^n)、T∈T^l(R^n)とします。SとTに対し「R^n上のk+l階テンソル」S※Tを次のように定義します。 S※T(u_1,…,u_k,u_{k+1},…,u_{k+l})=S(u_1,…,u_k)・T(u_{k+1},…,u_{k+l}) このS※T∈T^{k+l}(R^n)をSとTの「テンソル積」と呼びます。ちなみに数学の本では一般的にテンソル積の記号として○の中に×を書いたものを使います。 テンソル積は非可換であること、すなわちS※T≠T※Sであることに注意しておいて下さい。またS,S_1,S_2∈T^k(R^n),T,T_1,T_2∈T^l(R^n),U∈T^m(R^n),a∈Rとすると S※(T_1+T_2)=S※T_1 + S※T_2 (S_1+S_2)※T=S_1※T + S_2※T (aS)※T=S※(aT)=a(S※T) (S※T)※U=S※(T※U) 等の等式が成り立つのはすぐわかりますね。 和の場合はS+Tが定義できるのはk=lのときだけですが、テンソル積はk≠lでも定義できることが重要です。 さて注意を一つ。テンソルの引数になるベクトル空間の次元nとテンソルの階数kとの間に直接的な関係はありません。「テンソル積」を使えばいくらでも大きなkに対するT^k(R^n)の要素が作れます。しかし実際に(および以後の話でも)重要なのはk=0,1,2,nの場合くらいです。k>nの場合なんてまず使わないと思います。(物理や工学のことは知りませんが) (3)テンソルの例 抽象度が高いが役に立つ数学的概念は、(物理や数学等の)豊富な具体例を元に、それらを統一して包括的に議論できるよう構築されたものです。 「テンソル」もそういうものですが、そこに包括されているもののイメージをつかみやすいように、いくつかの具体例を挙げておきます。 R^nの「ベクトル」は双対空間の要素と同一視されますから、それ自身R^nからRへの線形写像と見なすことが出来ます。すなわちR^nの「ベクトル」は「R^n上の1階テンソル」と見なすことが出来ます。 「n次正方行列」は、これをR^nの双線形形式の表現と考えれば「R^n上の2階テンソル」と見なすことが出来ます。特に単位行列を考えることにより、「R^nの内積」も「R^n上の2階テンソル」であることがわかります。 「n次行列式」これはすぐわかるように「R^n上のn階テンソル」ですね。 私は物理には詳しくないので、恥を書くことを承知で物理的な「テンソル」の例も挙げておきます。物理に詳しい方のツッコミをお願いします。 「応力」はR^3上の3階のテンソルです(6階でしたっけ。だとするとこれはk>nの例ですね)。イメージとしては引数として各方向からの力(ベクトル量)をとり、それらを合成した「効果」(もちろんベクトル的な合成とは違う意味)を実数値で表現するための関数、というところかな。 「モーメント」これが今問題にしている「3次元でのベクトルの外積」として表現されるR^3上の2階のテンソルです。イメージとしては応力と同様で、力および力点の位置という2つのベクトル量に対し、それらの「効果」を表現するための関数、というところですね。他にも「渦度」のように「軸性ベクトル」として表現される量も同様なものですね。 (4)T^k(R^n)の基底と次元 先に書いたようにT^k(R^n)はR上のベクトル空間になるので次元が定義できます。また通常のベクトル空間と同様に標準基底も定めておくと便利です。 e_1,…,e_nをR^nの標準基底とし、f_1,…,f_nをその双対基底とします。すなわちf_i(e_j)=δ_{ij}(δ_{ij}はクロネッカーのデルタ)です。f_1,…,f_nはもちろんT^1(R^n)の要素です。 f_1,…,f_nから任意のk個の要素f_{i_1},…,f_{i_k}(1≦i_1,…,i_k≦n)を取り、そのテンソル積 f_{i_1}※…※f_{i_k} を作ります。これは当然T^k(R^n)の要素です。そしてこのようなT^k(R^n)の元全体がT^k(R^n)の基底になります。従ってT^k(R^n)はn^k次元になります。 (5)交代テンソル さて「外積」を考える上で重要なのが「交代テンソル」という特殊なテンソルです。文字通り「交代性」を持つテンソルです。(「交代」の代わりに「反対称」と呼ばれることもあります) 「交代テンソル」を定義します。 T∈T^k(R^n)であって、任意のu_1,…,u_k∈R^n とi≠jに対し T(u_1,…,u_i,…,u_j,…,u_k)=-T(u_1,…,u_j,…,u_i,…,u_k) を満たすようなものを「R^n上のk階交代テンソル」と呼びます。n次行列式は「R^n上のn階交代テンソル」であることは明らかですね。(実際「交代テンソル」と言う概念は「行列式」の一種の一般化です) また、1階のテンソルはすべて交代テンソルです。すなわち「R^nのベクトル」は「R^n上の1階交代テンソル」です。 ところで一般のテンソルの場合はk>nでも定義でき、かつ実質的な意味も持ち得ますが、交代テンソルはk≦nの時しか実質的な意味を持ちません。k>nの場合、T^k(R^n)の要素が交代テンソルになるとすればそれは0だからです。 これは引数のベクトルを基底表示して、交代テンソルを基底の組に対するものに分解してみるとわかります。 「R^n上のk階交代テンソル全体の集合」はベクトル空間として「R^n上のk階テンソル全体の集合」の線形部分空間になっていることは明らかですね。そこで「R^n上のk階交代テンソル全体の集合」をΩ^k(R^n)と書いておきます。Ω^k(R^n)のベクトル空間としての次元が、今問題にしている「外積の一般化」に本質的に関わってきます。 (6)交代化 一般のテンソルT∈T^k(R^n)(k≧2)はもちろん交代的とは限りませんが、Tから交代テンソルA(T)∈Ω^k(R^n)を作ることが出来ます。このA(T)をTの「交代化」と言います。それは次のように定義します。 A(T)(u_1,…,u_k)=(1/k!)Σ_{σ∈S_k} sgnσ・T(u_{σ(1)},…,u_{σ(k)}) ただしS_kは{1,…,k}の置換全体。sgnσは置換σの符号(すなわちσが偶置換なら+1,奇置換なら-1) なんだかややこしい定義ですが、もともと交代テンソルというのは行列式の一般化だけに、行列式の定義を思い出してもらえばそれの類推であることがわかるでしょう。 「交代化」も線形写像であることに注意して下さい。すなわちS,T∈T^k(R^n)およびa,b∈Rに対して A(aS+bT)=a A(S) + b A(T) となります。 さて次でいよいよ「外積」を定義します。じらしてすみません。

chukanshi
質問者

お礼

本当にご親切に教えていただき、ありがとうございます。m(_ _)m。なんとかついていています。こういう本当にエッセンスだけ抜き出していただくと非常に理解しやすいです。数学の本で、定理証明の繰り返しだと、木を見て森を見ずという感じに陥ってしまい、混乱します。こうやって、oodaiko先生のエッセンスを読んで、さらに詳しく知りたくなったら、専門書をもう一度読みなおしてみようと思います。そのときは、大局がみえているので、少し楽になると思っています。本当に力作ありがとうございます。つづきを楽しみにしております。よろしくご指導お願い申し上げます。

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