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宮崎県の種牛の殺処分について
noname#160718の回答
家畜衛生分野の獣医師です。ウイルスにも専門知識を有しています。 そのような者の「個人的見解」としてお読み頂ければ幸いです。 今回の問題は「科学的」な見地から対立しているのではなく、法を遵守するか特例を認めるのか、という対立です。 そのような角度から見ると、国は既に宮崎県有の種雄牛で「特例」を認めているのですから、それを忘れたかのような「法の遵守」一点張りの対応には疑問を感じます。宮崎県側は県の利益を守るために特例を認めてくれと主張しているのであり、国側は国のメンツを守るために認めない、と言っているようにしか見えません。 科学的な話をすると、口蹄疫がどのようなメカニズムで感染するのかは、非常に詳しく判っています。 ですから、感染が確認された農場は全頭殺処分という措置がとられています。初期の封じ込めに失敗して感染拡大が止められなかった場合(今回がまさにそれ)は、地域全ての感受性動物(牛や豚などの偶蹄類)を殺して食い止める、という方法しかありません。つまり、山火事が拡大するのが止められない場合、燃えている周囲の樹林を全て切り倒して拡大を止める、というようなものです。そしてその間、「時間稼ぎ」をするためにワクチンを接種するわけです。山火事の例で言えば、周囲の樹林に散水してから切り倒し始める、といったようなものです。 さて、問題の種雄牛ですが、現在は周囲に牛や豚などの感受性家畜は全て殺処分されてしまい、1頭もいない状態です。 この状況下で、当該種雄牛を殺処分せずに保留して、万一それらが感染していた場合でも(潜伏期間等を考慮するとその可能性もかなり低い)、そのために再び感染拡大が始まるリスクはほとんどありません。感染が確認された時点で慌てず騒がず当該種雄牛を殺処分すれば済んでしまう話です。 すっかり焼け野原になった土地に1本だけ木が残っていたとして、その木が仮に燃え始めることで何か危険がありますか?という話です。 ですから純粋に科学的に見た場合、問題の種雄牛をどうしても殺さなければならない理由は何もありません。 国側は「殺処分を受け入れた農家の心情」を挙げていますが、それもすっきりとは筋が通らない話です。 種雄牛は殺処分に甘んじて家畜がいなくなった宮崎県が復興するためには必須の存在ですから(養豚には関係ないとはいえ)、種雄牛を殺すことは復興のためにはマイナスになります。 特例を認めると今後に示しが付かない、というのであれば(ではなぜ県有種雄牛には特例を認めたのか、と思っちゃいますが)、種雄牛に関してのみ一定の条件を満たせば殺処分を免れることができる、という法整備をすれば済む話でしょう。 ちなみに種雄牛を作るには8年かかるとか15年かかるとか言われてはいますが、和牛の系統造成は一種の「ギャンブル」なので、できない時は50年かけても「産地を支えるに足る」種雄牛は出てきません。その種雄牛の能力、そしてブランドイメージが「肥育や繁殖素牛としての子牛の価格」を決めるのですから、「スーパー種雄牛」1頭で何十億円という経済効果があるのです。 「スーパー」だった忠富士は感染が確認されて殺処分されましたし、20年近く前に一世を風靡していた安平という牛も感染して殺処分されました。 私は安平が「殺された」というよりも「まだ生きていたのか」ということに驚きましたが・・・ 20年前ですからね、一世を風靡していたのは。現在は年老いて精液も取れなくなって「余生を送っていた」ところの災難だったわけです。 他の某県の「スーパー種雄牛」(それもスーパー中のスーパー)が天寿を全うして死んだ時は、その県の副知事が出席して「県葬」を行ったそうです。銅像も建ってますし。 種雄牛というのはそのくらいの存在です。法を曲げてでも、リスクをかけてでも守ろうとするのはよく理解できます。 まして現在の状況は、感染している疑いもほとんどないですし、万一感染していてもそれが新たな感染拡大を招くリスクもほぼゼロと言って良いわけですし。 そんなこといえば、県有牛の方が比較にならないくらいリスクは高かったわけですが(感染しているリスクも新たな感染拡大を招くリスクも非常に高かった)、あれを認めておいて今回は「法を遵守せよ」の一点張り、というのは滑稽を感じますね。 余談ですが、完全密封の屋内畜産施設、なんてのは世界中どこを探しても存在しません。 感染実験を行う際の動物飼育施設であれば、国内にも存在しますが、建てるのにも維持するのにも莫大な費用がかかるので「畜産」として成立するはずもありません。 そもそも「畜産」というのは畜産物を外に出すから成立するのですよ。密封と根本的に反します。
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