前回のご質問にお答えした者です。
仰せの調性のことにつきましては、過去に音楽学者の研究や文献もありますしネット上で検索されてもある程度はヒットすると思います。
また、先のNo.1の方の回答も簡潔・明解ですね。
明らかにバッハの平均律集は24全てにわたり均一な音楽が書けることの証であり、また対位法・和声の研究や実践、器楽・特に弦楽器(ヴァイオリン、チェロ)の為の無伴奏曲も(譜面上は実に多声部にわたるが、実際の奏法はモダン楽器では後世の大家たちの様々な解釈・奏法でおこなう)、「よくぞここまで!」と感心するくらい高密度、ある意味楽器の限界まで書かれています。しかも、当時の様式にきちんとおさまりながらも決して単調にはならず、さらにその多様性や味わい深さ、時を越えての普遍性などはバッハならではの孤高の世界だと思います。
ブランデンブルグ協奏曲等でも軒並み弦楽器が響きやすい調性(♯1~2つで開放弦が使えるト長調やニ長調、♭系も1~2)です。例外的にヴァイオリン協奏曲第2番は♯4つのホ長調で書かれています。(勿論、E線の開放弦は使えます)また無伴奏パルティータ第3番のプレリュードの場合はE線やA線の開放弦を用い、低い方の弦であえて高い音を押さえることにより移弦による細かい音の動きがオルガン点の様な効果を生み出します。
ハイドンは純器楽のために沢山の楽曲を残していますね。やはり、偉大な作曲家で弦楽四重奏曲や交響曲といった新しいジャンルの先駆者でもあります。調性に関しては仰せの様に特殊なものは極端に数が少なく殆どが♯なら3つまででせいぜい4つのE-durまでです。
交響曲では第45番「告別」、46番が特殊といえば言えますが。
しかし、告別は第一楽章の主調がfis-moll(嬰ヘ短調)で♯3つ。これが終楽章では関連のFis-dur(嬰ヘ長調)になっています。F♯から始まる長音階ですのでつまり♯が6つ付きます。譜面は確かに♯だらけですが聴く分には曲調が明るく変る訳です。(よく似た例で、有名なメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は第一楽章がホ短調=♯1、第三楽章は転じてホ長調=♯4つという風に)
46番はロ長調。♯5つですね。弦楽器では特にA線の開放弦が使えなくなるので響きの点で明るさや華やかさがセーブされます。(特にラ音から始まるA-durは優雅な響きの調性と言われています)
告別よりもこちらの曲の調性の方が当時としては稀だと言えるでしょう。
さて、モーツァルトです。
彼の音楽の根底に流れているものは常に「歌」です。そしてドラマ性とでも。ハイドンの純器楽的なものに泉の如く湧き上がる歌心がいっぱい詰まっているとでも言ったら・・・ハイドンに献呈された実験的?な6曲の弦楽四重奏曲はどれも新しい試みがされている傑作です。
それは例えば、半音階を巧みに使ったりすることで旋律の柔らかさを表現したり・・・こういった感じはハイドンにはないものです。
本題に戻りましょう。
モーツァルトの膨大な作品で調性に関しては♯、♭共に3つまでではないでしょうか。それも長調が殆どです。弦楽器の協奏曲では♯1~3つのG-dur(ト長調)、D-dur(ニ長調)、A-dur(イ長調)で開放弦がのびのびと使えかつ明るく華やかな響きが出ます。他に♭系では2つのB-dur(変ロ長調)、3つの Es-dur(変ホ長調)が多いようです。マイナー系は♭1つのd-moll(ニ短調)、2つのg-moll(ト短調)が多く稀に3つのc-moll(ハ短調)や4つのf-moll(ヘ短調)なども。
他のあらゆる楽器のためにも珠玉の作品を残しています。その殆どが全く無しのハ長調から♯♭共に1~2つ、最高でも3つまでです。
やはりモーツァルトの信条である無駄をなくした簡潔な中での最高の音楽表現のためだと思います。各楽器の性能や表現能力を見事なまでに透明感かつ明るい曲想の中にも巧みな転調により微妙な陰影・蔭りといったものを付けていく手法はまさに天才の証です。
彼にとって、♯♭を使った調性は以上で十分だったと思います。
お礼
なるほど、やはり調性の簡潔さは「無駄な響き」を避けるモーツァルトの特徴なのですね。そう考えるとハイドンのロ長調はいっそう謎ですね。