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ハロルド・ショーンバーグ『偉大なピアニスト』

mannequinkatzeの回答

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回答No.2

英語が読めるならそのまま原書をお読みになることをお勧めします。翻訳がひどすぎます。頁を繰っても繰っても誤謬に継ぐ誤謬で、一通りの理路をたどることさえたぶん常人には無理です。名著の誉れ高い原作の持つさまざまな美質は一つとして伝わらないと云わざるを得ません。 訳者たち(中河原理と矢島繁良)は日本語を知らず英語を知らず音楽を知らない。とくに音楽についての無知、不勉強には驚かされます。とくにひどいのは矢島で、この人は譜面さえ読めぬとしか思えない。とにかく両人ともに、楽譜をほぼ一切参照せぬままに翻訳作業を終えたことは疑い得ないところです。 タールベルクとかケージとか、そういうマイナーな人の楽譜を実見することは、昔のことではあるし、難しかったのかもしれないけれど、ショパンの革命についてこんな↓とんちんかんな訳文を作るとは一体どういう了見でしょう。 「激しさを表現するため、フリードマンは左手のアルペッジョを猛烈に速く弾く。そのため音符が同時に鳴るので、クライマックスの変ホ長調まで音符はスラーしている」 全体が馬鹿っぽいことになってますが、「変ホ長調」ってなんじゃそりゃあ、ですよね。これショパンの『革命』の演奏についてです。これはアルペッジョの頂点となる「変ホ音」に決まってるんで。明らかに矢島は意味が分からないまま訳してます。楽譜も見ず、フリードマンの録音も聞いていないから、ショーンバーグがここで何を伝えようとして熱弁をふるっているか、さっぱり分からない。もちろんここで著者が熱っぽく語っていることだって微塵も伝わりません。 あとは推して知るべし。やけくそか悪ふざけとしか思えない訳語の選択さえ見られます。「長年デュオを組んだ」とでも訳すべきところを「長年一緒に暮らした」なんてふうに。ピューニョとイザイ(超有名バイオリニストにしてものすごいデブ)のことですよ。ホモ関係にあったとでもいうのか! 中河原理はそれなりに名の通った音楽評論家で訳書も少なくないのに、これまた悲惨なものです。一例を挙げるなら、第六章にこんな一節があります。 「ちょうどエマヌエル・バッハが一七五〇年代のクラヴィーアの技巧を系統立てたように、クレメンティ以降の橋渡しのピアニストたちは、ピアノの技巧を集大成しようとした。しかしそれは栄光ある混乱と衝突を招来した。とはいえ、今日に到るまで、それがピアノ技巧にあっての法則なのである」 これは"glorious"の皮肉に気づかず、"rule"を直訳したために意味不明になっています。それぞれ「壮絶なる」「常態」と訳すべきところ。ピアノ演奏技術の実際について、著者と訳者の認識が正反対だからこんなふうになるのでしょう。原文ではピアノの弾き方には明確な規範がない、ということが繰り返し述べられているのに、訳者はまさかそんなことはないと頭から決めてかかっているからこういうちぐはぐで意味の通じない訳を作ってしまうのです。 ショーンバーグは翻訳に恵まれない人で、「グレート三部作」のほかの二編もひどい代物です。『大指揮者たち』はとっくに絶版、『大作曲家の生涯』は現役ですが、翻訳がやっつけ仕事で目を疑うような間違いだらけ、あまつさえ原稿のメモ書きがそのまま印刷に附されてしまっている部分があったりして溜息が出ます。それより何より、勝手に改行をとてつもない回数増やしているので読みにくくてしょうがない。 ショーンバーグの文体は平明さを大切にするもので、たいへん読みやすいものです。ちょっと荒っぽいところがあるのと、古いニューヨーク・タイムズ式の書き方を踏襲していて、すでにお気づきかどうか一人称単数の代名詞すなわち"I"を絶対に使わないという一大特徴がありますが。あれほど浩瀚な書物に一つも出てきませんから。いや、実を言うと一箇所だけ出てきます。著者本人を指すアイが。探してみてください。ああ、ここは使わざるを得ない、とニヤリとなさるかもわからない。

Hardy
質問者

お礼

そうでしたか… こういう本って確かに英語力以上に専門知識(この場合は音楽知識)が必要ですよね…。 ご丁寧にどうもありがとうございました。

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