柔道の絞め技が脳に与える影響(脳神経外科分野)
柔道界に身を置く者(指導補助員)です。
柔道の絞め技が脳に与える影響について、脳神経外科の専門医の方にお尋ねします。
柔道の絞め技は、相手の頸動脈を絞扼したり、頸動脈洞を圧迫して頸動脈洞反射を引き起こさせたりして、脳血流を低下させ、相手を失神(落ちた状態)させて一本勝ちする技です。
中高生の試合では、絞め技が極まって落ちた状態(失禁も有り得ます)の選手を頻繁に目にします。
落ちた選手は、審判の活法により蘇生しますが、見たところ落ちてから蘇生までの時間は、短くて15秒(審判が直ぐに気付いた場合)前後、長くて30秒(相手が落ちた状態で抑え込みに入っている場合など)前後です。
落ちると一時的であるにせよ、脳血流が不足するのですから、素人目には脳に何らかの不可逆的変性が起こっていても不思議ではなさそうな気がしますが(脳に影響が生じるという俗説もあります。)、柔道界では伝統的に「脳には全く影響ない」とか「絞め技が巧くなると楽に一本勝ちできる」などの見解をはじめ、絞め技を推奨する声しか耳にしません。
柔道部の練習でも、部員がお互いに絞め合ったり、実際に落ちる稽古を繰り返したりしている実態があります。
また、試合では監督から「絞められても落ちるまでタップ(畳を叩く)するな!」と檄が飛び、落ちる前にタップして一本負けした選手に、監督が鉄拳制裁を加えることもよく見掛けます。これらは、柔道の強豪校では常態化しているようです。
来年度からは、中学校の体育で武道が必修化され、多くの学校で柔道が選択されます。
その一方で、毎年柔道事故が起き、死亡や重度後遺症に至った事例で、巨額(数億円)の損害賠償判決が言い渡されたとの報道もあります。柔道事故の中には、絞め技の際誤って気管を絞めて窒息死させた事例もあるようです。
従来、柔道界が関わってきた医学分野は、骨格(関節や脊椎を含む。)や筋損傷への対応がメインとなり、整形外科がその中核を占めてきました。頭蓋骨及び脳の加速損傷による急性硬膜下血腫を始めとする脳損傷は、これまであまり重視されることもなく、脳神経外科の領域は柔道界では、いわば未知の世界で、絞め技と脳損傷の関係についても問題意識が高まることはなかったように思われます。
そこで、気管を絞めて窒息させた場合は論外として、頸動脈のみ絞めて脳虚血状態に陥らせ失神させた(落ちた)場合、大なり小なり脳がダメージを受けるものなのか、それとも脳は一切ダメージを受けないのか、脳神経外科の専門医の方のご意見や最新の研究結果などをお聞かせいただきたいと思います。