相続性の問題だけを考えるなら、相続することになります。しないとする理由がありませんから。
相続人は被相続人に帰属した一切の権利義務を引き継ぐ(ただし、被相続人の一身に帰属する権利義務を除く。)のですが、損害賠償債務は単純な金銭債務であって別に一身専属性はありませんから、相続性を認めることができます。被害者の損害賠償債権が相続されるんですから、その逆の加害者の損害賠償債務が相続されるのは何ら不思議はありません。
ところで、事故時の加害者死亡の場合、もしかしたら損害発生時に既に不法行為者が死亡しているかもしれません。するとその場合、そもそも損害賠償義務が生じているのか?は、理論上検討の余地が多少はあります。
損害発生の時点で既に加害者が死亡している場合(自爆単独事故を起こして加害者が死亡し、その制御不能になった車にはねられた被害者がいるというような場合。)に、不法行為時点において責任主体が存在しないので損害賠償債務は発生しないと理論的に考えることは可能ではあります。
深く考察すると結構面倒なので(実は30分ほど考えて面倒臭いという結論になりました。)、結論だけを言えば、加害行為の時点で潜在的に損害賠償債務は発生しており、結果発生時にはその内容が具体化するだけであると考えて、加害者に当該事故による損害賠償債務が発生し、かつ、相続されるとしてよいと思います。
例えば、誰かを殺害しようと毒入りの酒を渡したところ、それを被害者が飲む前に、加害者が心臓麻痺で死んでしまい、その翌日被害者がその酒を飲んで死亡したとしましょう。この場合、損害発生時において加害者は既に存在しないので、権利義務主体たりえず、損害賠償債務は発生しないと考えるべきでしょうか?それとも、加害行為の時点では存在したのだから、それが結果を発生させた以上は、加害行為の時点で潜在的には既に損害賠償債務(結果が確定していないので金額等が不確定なだけ)が発生していたと考えるべきでしょうか?
理論を抜きに、結論の妥当性だけ考えれば、後者の方が良いと考える人の方が多いのではないかと思います。
被害者死亡の場合に死亡と受傷との間に観念的時間のずれを想定して損害賠償請求権の発生と死亡による相続を認める判例理論と不法行為による損害賠償債務は不法行為の時から履行遅滞となる判例との理論的な親和性を考えても、後者の方が妥当だと思います。
お礼
間違えて、補足にお礼をしていました。失礼しました。
補足
回答ありがとうございます。 丁寧に説明していただいたので、とても分かりやすかったです。 貴重なお時間を割いていただいて、改めてありがとうございます。