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藤沢周平さんの「溟い海」

藤沢周平さんの「溟い海」という作品(葛飾北斎を主人公にすえた短編で、30年ほど前の作品です。)をお読みになった方、あの作品のオチについて教えてください。主人公は、どんな気持ちで広重の腕を折ろうとして、折れなかったのか…最後の場面は何を意味するのか…など。よろしくお願いします。

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回答No.1

そういえば持ってたなー、と思って、本棚を探してみたら、ありました。『暗殺の年輪』。 ということで、十年ぶりくらいに読み直してみました。 うまい作りだなー、と感心しました。 日本の作家っていうより、ラードナーとかショーとかの短編の作り方に似てるなぁ、なんて改めて思ったりします。 さて、前置きはこのくらいにして。 まず、作品は、北斎の視点に沿って描かれていきますね。 北斎は、このところ評判の高い、新進画家の広重が気になって仕方がない。 北斎自身は、富岳三十六景で、衆目を驚かせたのですが、続く富岳百景では、それほどの評判は得られなかった。自身も老境を迎え、世間からは盛りを過ぎた存在と目されている。 その北斎は、広重の絵をなかなか見ることができないんです。 弟子たちや版元から、評価は聞く。 平凡、とりたててどうということはない、悪くはないが…、といったもの。 その北斎が、思いがけず広重本人に会う。 平凡で穏やかな容姿の人物で、意外の念に打たれる。 ところが帰り際、いままで目にふれなかった右頬のほくろに気がつくのです。独自の存在感、むしろ猛々しさを感じさせるほくろ。 そののち、北斎自身が、広重の絵を目にします。 平明な絵。弟子たちの評価を越えるようなものではない。 自分が絵を描くときのような、対象との格闘のあとがどこにもない。 けれども、見ているうちに、北斎は広重の絵に隠された、ただならなさを読みとってしまう。 「闇と、闇がもつ静けさが、その絵の背景だった。画面に雪が降っている。寝しずまった家にも、人が来、やがて人が歩み去ったあとにも、ひそひそと雪が降り続いて、やむ気色もない。  その雪の音を聞いた、と北斎は思った。そう思ったとき、そのひそかな音に重なって、巨峰北斎が崩れて行く音が、地鳴りのように耳の奥にひびき、北斎は思わず目をつむった」 こうして北斎は自分の敗北を知る。 版元からも、自分に回ってくるはずの仕事が広重に回されたと聞いた北斎は、無頼の徒を雇い、広重の腕を折って、彼を抹殺しようと思います。 ところが、待っている間に、北斎は広重の素の顔を見てしまいます。 北斎と対座している時の顔は、世間向けの顔だった。 素の広重は、自分と同じく、デモーニッシュな顔、芸術に取り憑かれたものだけが持つ、ひたすらに暗い顔をしていたのです。 北斎は、自分の分身を彼に見た。 そうして、広重を襲わせるのを止め、自分が身代わりになって痛めつけられる。 家に帰って、ふたたび北斎は絵筆に向かいます。 広重によってもういちど、彼自身の内側に、デモーニッシュな火が点ったのです。 彼が描く「溟い海」は、自身の深淵の溟さ、そうして、広重の「東海道五十三次のうち蒲原」の暗さに通じていきます。 同時にこの「溟さ」は登場人物それぞれが抱える闇の深さとも重なり合っていく。 いやいや、ひさしぶりに読んだらおもしろかった。

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