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1 事案 本件は,平成3年3月にY(上告人)から本件土地を買い受けたX(被上告人)が,Yに対し,本件土地の土壌にふっ素が基準値を超えて含まれていたことが民法570条にいう瑕疵に当たると主張して,瑕疵担保による損害賠償を求める事案である。本件売買契約締結当時,土壌に含まれるふっ素については,法令に基づく規制の対象となっておらず,取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかった。なお,土壌に含まれるふっ素についての環境基準が告示されたのは平成13年3月,ふっ素が土壌汚染対策法に規定する特定有害物質と定められたのは平成15年2月のことであった。  原審は,土地の土壌に人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていたことは瑕疵に当たるとして,Xの請求をほぼ全部認容した。  Yが上告受理の申立てをし,第三小法廷は,本件を受理した上,判決要旨の事情を指摘し,本件土地の土壌にふっ素が基準値を超えて含まれていたことは瑕疵に当たらないとして,原判決中Y敗訴部分を破棄し,Xの控訴を棄却した。 2 民法570条にいう瑕疵 瑕疵の意義については,具体的な契約を離れて抽象的にとらえるのではなく,契約当事者の合意,契約の趣旨に照らし,通常又は特別に予定されていた品質・性能を欠く場合をいうことで,ほぼ異論がない状況にあるということができる。  すなわち,売買契約の当事者は,(1)一般に,給付された目的物が,その種類のものとして通常有すベき品質・性能を有することを合意し,また,(2)ある品質・性能を有することが特別に予定されていた場合には,そのように特別に予定されていた品質・性能を有することを合意しているといえ,これらの合意に基づき通常又は特別に予定されていた品質・性能を欠くことが,瑕疵ととらえられることになる。そうすると,売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断することが相当であると思われる。そうでなければ,売買契約締結後に時の経過や科学の発達により目的物の品質・性能に対する評価に変更が生じ,契約当事者において予定されていなかったような事態に至った場合も瑕疵に当たり得ることになり,法的安定性を著しく害することにもなって,相当でないと思われる。 3 検討 本件についてみると,本件土地につき,(1)「本件売買契約締結当時の取引観念上,人の健康に係る被害を生ずるおそれがあると認識されていた物質」が人の健康を損なう限度を超えて土壌に含まれていないことが,通常有すべき品質・性能であるということができ,上記物質が上記の限度を超えて土壌に含まれていれば瑕疵ととらえられることになる。また,(2)I「ある特定の物質」が土壌に含まれていないことや,II「本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質」が土壌に含まれていないことが,特別に予定されていた場合にも,これらの物質が土壌に含まれていれば瑕疵ととらえられることになる。  本件土地の土壌にはふっ素が基準値を超えて含まれていた。しかし,本件売買契約締結当時,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったというのであるから,(1)の意味で,瑕疵ととらえることはできない。また,Iふっ素が土壌に含まれていないことや,II「本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質」が土壌に含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれないというのであるから,(2)の意味で,瑕疵ととらえることもできない(なお,本件土地は,主に工業用のフッ化水素酸を製造するための工場用地として利用されていたようであるが,それにもかかわらず,本件土地の土壌にふっ素が含まれていない旨の明示的な合意がされていなかったことや,本件売買契約締結が土壌汚染対策法公布の10年以上も前のものであること等に照らすと,Iが予定されていたとみることは困難であろう。また,IIが予定されていることは,売主にとってはいわば永久保証をするのと同じであるから,通常は考え難いであろう。)。  したがって,本件土地の土壌にふっ素が基準値を超えて含まれていたことは瑕疵に当たらないということになるものと思われる。

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