漱石は先生に次のように語らせてます。
Kは正しく失恋のために死んだものとすぐ極めてしまったのです。しかし段々落ち付いた気分で、同じ現象に向ってみると、そう容易くは解決が着かないように思われて来ました。現実と理想の衝突、――それでもまだ不充分でした。私はしまいにKが私のようにたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に所決したのではなかろうかと疑い出しました。
現実と理想の衝突:
Kは自分の思いえがく高い理想と現実の間で葛藤しています。
このことがKの自殺に深く関わっていることは間違いないと思いますが自殺にまでは至りません。
一人で淋しくって仕方がなくなった:
こちらが自殺への引き金になったと考えるべきでしょうね。
実家と養家から見放されたばかりでなく、お嬢さんを巡る恋で、最も信頼していた幼友達の先生から裏切られます。
真面目で純粋、プライドも高いKは先生を責めたりはしません。
しかし、そのことがKを孤独に追いやってしまいます。
全ての問題を自分のこころの中に閉まったまま誰にも打ち明けられない孤独、そんな気がします。
行き詰ったKは、自殺という道を選んだのではないでしょうか。