「豪ドル高を待って日本円に換えたい。いったん外貨預金に預けた方がよいか」
→豪ドル建てトラベラーズチェック(以下TC)についてはそこまでの必要性は感じられません。豪ドル建て小切手はいったん外貨預金にする選択もありますが、得になるとは限りません。
「外貨預金とは、好きな時に日本円に交換(円転)できる商品なのか」
→その通りです。細かく言うならば好きな時に円転できるのは、外貨預金でも外貨普通預金のみです。外貨定期預金は当然、満期まで円転できません(*1)。
1. 為替用語説明
為替に関する取引の説明には為替用語を避けて通れないので、まずその説明にお付き合い下さい。
〈銀行間レート〉 外国為替市場において文字通り銀行間の取引に用いられるレート。顧客はこのレートでは取引きできず、外貨を売るにしても買うにしても必ずいくらかのマージンを払うことになる。新聞やテレビなどで報じられているレートは特に断りのない限りこの銀行間レート。
〈公示仲値(TTM)〉 銀行間レートは常時変動しているので、これを窓口での取引基準に使うと処理が煩雑になる。そこで銀行はこれに代えて「公示仲値」というものを定め、その日一日の取引の基準レートに使う。(一日に数回改定する銀行もある)
<対顧客電信売レート(TTS)> 外貨現金をやり取りしない(数字上の)取引において、銀行が顧客に外貨を売る際のレート。具体的には海外送金(仕向け)やトラベラーズチェック発行が該当する。豪ドルの場合はTTMに1豪ドルあたり1円~2円50銭を上乗せした数字になる(*2)。このTTMとTTSの差のことを「為替手数料」と呼ぶ。
<対顧客電信買レート(TTB)> TTSの逆で、外貨現金をやり取りせずに銀行が顧客から(数字上で)外貨を買う場合のレート。具体的には海外送金(受け取り)やトラベラーズチェック買取が該当する。豪ドルの場合はTTMから1豪ドルあたり1円~2円50銭差引いた数字になる。こちらのTTBとTTMの差も「為替手数料」と呼ぶ。
No. 1の方はどうも「銀行間レート」の用語を誤って理解しておいでのようです。「TTS TTBの銀行間レート」なるレートは存在しませんし、「数字が移動するだけのレートは銀行間レート。」も誤りです。(外貨現物のやり取りを伴わない、数字上だけの取引で適用されるレートはTTS/TTB)
2. 外貨預金と商品選択での注意
昨今は日本でも多くの銀行が外貨預金を扱っていますが、銀行(換言すれば外貨預金商品)の選択には注意が必要です。
(1)外貨現金や外貨建てTCでの入出金には対応していない外貨預金商品が多い
(2)外貨現金や外貨建てTCでの入出金に対応している外貨預金商品でも、多くの場合は入出金の都度手数料を徴収する
従って「外貨建てTCでの入金ができるか」「入金の際の手数料はどのくらいかかるか」をしっかり調べて商品を選ばなくてはなりません。(1)のタイプの商品は「日本円で資金を振り込み、適宜のタイミングで外貨に(数字上で)振り替えて、値上がりを待って円に戻して差益を得る」ことのみが目的です。例えばソニー銀行の外貨預金など人気がありますが、無店舗銀行であることもあり外貨現金や外貨建てTCでの入出金には対応していません。
みずほ、三井住友、三菱東京UFJのいわゆる「三大メガバンク」なら外貨現金や外貨建てTCでの入出金に対応していますが、手数料はそう安くありません。日本円の預金と同じ感覚で、外貨預金についても「無手数料でいつでも出し入れ自由」と考えがちですが、実際には出し入れのたびに手数料がかかり目減りします。外貨預金とは言っても、外貨(現金、TC)での出し入れは実は付帯的な存在なのです。
三大メガバンクで、外貨建てTCをその通貨の外貨預金として預ける際の手数料は以下の通りです。
・みずほ銀行[1]
外貨建てTCでの預け入れ1回あたり500円 そのほかに処理期間に応じた金利立替分(1豪ドルあたり数十銭程度)
・三井住友銀行[2]
額面の0.05%、ただし最低2,500円徴収 そのほかに処理期間に応じた金利立替分(1豪ドルあたり数十銭程度)
・三菱東京UFJ銀行[3]
処理期間に応じた金利立替分(1豪ドルあたり数十銭程度)
またシティバンク銀行は外貨建てTCをその通貨の外貨預金として無手数料で預けられます。金利立替分の差し引きもありません。
No. 1で「無理ですよ。(外貨預金するには)一度円に換金しないと。」との回答がありますが、いったい何を根拠にそう結論なさっているのでしょうか。上で述べたように外貨建てTCをそのまま外貨預金として預けることは可能なのですが。
3. 具体的な換金の方策
3-1 トラベラーズチェックの換金
TCの円転で考えられる選択肢は次の(A)(B)の2つです。どちらが有利か定量的に比較してみます。
(A) 豪ドル建てTCのまま持っておき、「高くなった」と思ったタイミングで円転(外貨預金としては預けずに、単にTCを換金するだけ)
(B) いったん豪ドル外貨預金にし、「高くなった」と思ったタイミングで円転
比較し易くするために以下の仮定を行います。
・預ける銀行は、TCで預ける際の手数料の安い三菱東京UFJ銀行とします。
・円転実行のタイミングは(A)(B)で同じ、従ってTTBも同じとします。
・金利立替分を支払うタイミングですが、(A)は円転時、(B)は外貨預金時と異なります。立替分は金利情勢により上下があるので、タイミングが異なれば立替分にも若干違いが出るのですが、ここでは(A)(B)とも同じとします。
・預けるのは普通預金とします。本回答時点で三菱東京UFJ銀行の豪ドル普通預金の利率は年0.4%(税引後)[4]なので、この数字を採用します。
以上の条件で検討すると、(A)(B)で違いが出るのは最後の「預金したことによって付く利子」だけです。どれくらいの期間預けたかによっても違いますが、預金して3か月目に円転したとして、利子として付く額は0.1%(税引後)です(*3)。この程度の差であれば、わざわざ外貨預金にしてから円転する必要は
ないでしょう。
シティバンク銀行は、口座を持っていれば無手数料でTCをその通貨の外貨預金として預けられ、後でTCで払い出すこともできます(米ドル、ユーロ、英ポンド、豪ドルのみ)。金利立替分は不要ですし、為替手数料も1豪ドルあたり1円と割安です。ただしシティバンク銀行は日本では支店が少ない上、口座残高が一定基準を割ると「口座維持手数料」(月2,100円)を徴収されます。TCの換金1回だけのお付き合いならわざわざ口座を作るまでもないでしょう。もちろん、既に口座を持っておいでならシティバンク銀行活用が最良の選択と思われます。
3-2 豪ドル建て小切手
小切手はTCより厄介です。期限がありますから早めに「取立て」の手続きをしなくてはなりません。取り立てた代金は外貨で受け取って外貨預金に入金することも、受け取りと同時に円転することも可能ですが、どちらの通貨で受け取るかで手数料が異なります。
整理しますと選択は
(C) 取り立てた小切手の代金は豪ドルのまま外貨預金口座に入金してもらい、「高くなった」と思ったタイミングで円転する(円転を実行した際のTTBが適用)
(D) 取り立てた小切手の代金は入金時に円転し、円預金口座で受取る(入金時のTTBが適用)
の2つです。
一見すると(C)(D)の違いは円転のタイミング、すなわちレートが円高円安いずれに振れるかだけの問題に思えますが、もう一つ「リフティングチャージ」と呼ばれる手数料の影響があります。
リフティングチャージとは外貨取引に特有の手数料で、通貨の交換を伴わない外貨取引に対して課せられます。具体的には
・外貨預金から外貨で資金を引き出し、その通貨建てのTCを発行してもらう
・海外から外貨建てで送られてきた資金を、その通貨の外貨預金に預ける
などが対象になります。(D)の方法で、入金時点で円転すればリフティングチャージはかかりません(通貨交換を伴っているので)。その代わりその後の豪ドル値上がり益は見込めません。一方、豪ドルで受け取るとリフティングチャージを差引かれますが、値上がりを待って円転することも可能です。もちろん値下がりリスクも同時に存在するのですが。
標準的なリフティングチャージの額は取扱額の0.05%ですが、最低額があって取扱額が小さくとも一定の金額(2,500円のことが多い)を徴収されるのが通例です。リフティングチャージの呼び方は銀行により異なりますが、「取扱額の0.05%」とあればまずこのリフティングチャージと考えて頂いて結構です。参考までに三菱東京UFJでは「外貨取扱手数料」の呼称を使っています。
また(C)(D)いずれの方法でも、外国小切手取立ての手数料は同じようにかかります。その金額は銀行によって異なりますが、2,000円~5,000円といったところです。三菱東京UFJ銀行は外国小切手取立て手数料は5,000円と高めなのですが、個人の取引についてはリフティングチャージを免除しているのは好都合です。
TTMが1豪ドル=78円00銭のときに、1,000豪ドルの小切手の取り立てを三菱東京UFJ銀行で依頼したとすると以下のような結果になります。最終的にどちらが得になるかはその後の為替の動きによるので何とも言えません。またリフティングチャージを徴収する銀行であれば、受け取り時点ですぐに円転することを選択しリフティングチャージを回避した方が得策でしょう。
(C) 豪ドルで受取り 1,000豪ドルが入金され、手数料5,000円を別途払う
(D) 日本円で受取り 71,000円が入金される(TTBがTTMより2円安い1豪ドル→76円00銭。さらに外国小切手取立手数料5,000円を差し引き)
シティバンク銀行は小切手取立ての手数料が安く、豪ドル建ての場合1枚1,500円です[6]。個人の取引であればリフティングチャージもかかりません。ただし、口座を持っていないと小切手取立てはできません。
私ならですが、シティバンク銀行に口座を持っているので「豪ドル建てTCはそのまま無手数料で豪ドル普通預金に入金。豪ドル建て小切手はシティバンクに取り立てを依頼し、やはり豪ドル普通預金に入金。後でタイミングを見計らって換金」とすると思います。もし口座を持っていなかったなら、リフティングチャージがかからず為替手数料もシティバンク銀行の次に安い三菱東京UFJ銀行を使っていたと思います。
【まとめ】
1. 外貨預金に預けるのであれば、その商品が「外貨建てTCでの入出金」に対応しているかチェックした上で利用ください。トラベラーズチェック(以下TC)での入出金ができない外貨預金商品、入出金はできても手数料の高い外貨預金商品は多々あります。
2. 豪ドル建てTCについて言えば、外貨預金を経由で円転した際に得となる額は、外貨普通預金の利子分程度です。その額はわずかなので無理に外貨預金を経由で円転せずとも、「豪ドルが高くなった」と思えた日に近くの金融機関にTCを持ち込んで換金(円転)すれば十分でしょう。
3. 豪ドル建て小切手は期限があるので、極力早めに銀行で「取り立て」の手続きをすることを勧めます。代金は豪ドルで入金してもらうことも、円転して円で入金してもらうことも可能ですが、前者ではリフティングチャージに注意が必要です。
【参考ページ】
[1]http://www.mizuhobank.co.jp/saving/asset/gaika/manabu.html
[2] http://www.smbc.co.jp/kojin/gaika/list/futsu/index.html
[3] http://www.bk.mufg.jp/tameru/gaika/hajimeru/kiso/tesuu.html
[4] http://www02.bk.mufg.jp/tameru/gaika/shouhin/futsuu/t_gf_kinri.html
[5] http://www.bk.mufg.jp/tesuuryou/gaitame.html
[6] http://www.citibank.co.jp/ja/bankingservice/servicecharges/index.html
*1 一部には、満期前に為替予約ができる外貨預金商品もあります。
*2 為替手数料の具体的な値ですが、シティバンクが1豪ドルあたり1円、三菱東京UFJが2円、みずほと三井住友が2円50銭です。TTMとTTBの差も同額です。
*3 普通預金でなく定期預金にすれば年2%程度の利子が付きますが、冒頭述べたように、タイミングを見計らって円転することはできなくなります。
お礼
ご回答ありがとうございます! まさに私の知りたかった事を丁寧に無駄なく説明して頂き大変感謝してます。素人にも分かり易いように書いて下さって本当にありがとうございます。 ご回答頂いたシティバンクの口座開設してみてもいいかなっと思い調べたところ8月15日までは新規の顧客をストップしてるようで詳細が分からなかったので残念でした。申し訳ないですが、もう少し質問させてもらいたいのですが・・ シティバンク口座を持っていなく、近くにシティバンクが無いのですが、やはり豪ドル小切手やTCを預入れる場合シティバンクの窓口からでないと無理ですか?(できれば回答して頂いたように全てシティバンクに預けてタイミングを見て換金という方法にしたいのですが)