年収2億円。羨ましいですか?
長文失礼します。
これから小説を書きます。時間に余裕のある方だけお付き合いください。
あなたは高学歴です。大手の倍率が非常に高い会社に就職し、周りにも羨ましがられていた。エリートキャリアを歩んでいくと思われていた。
プライベートでは大学の同期や先輩、教授やOB会、会社関係など、人脈が広がったり繋がったりした時期で、様々な誘いがあった。
女子アナと食事会、スッチーとバーベキュー、ヒルズ族達のパーティー、経済界や政界の著名人と会食、その時は普通のことのように感じていたが、普通は経験できないような誘いや遊びがあった。
社会人になると何もかもが変わる。使う言葉、マナーや常識、人との関わり方。社会人としての責任を求められる中で仕事を覚え、職場に適応し、人間関係を構築する。どんな仕事をするにしても慣れるまでストレス負荷は強くなるし、仕事をしたくないという思いが頭をよぎる。それは普通のことだ。
しかし、そんな時期に他の選択肢があったらどうなるだろうか。逃げ道があったらどうするだろうか。
不幸なことにあなたには選択肢があった。投資でお金を稼ぐ自信があった。会社を辞めても会社の仕事以上に稼ぐ手段があった。
そうしてあなたは会社を辞め、投資で稼ぐ生活をすることにした。安易にキャリアを捨て、お金を選んだのだ。
楽にお金を稼ぐ選択をしたつもりが楽にはならなかった。最初の1年こそ楽に数千万円稼いだが、翌年には全てを失い、自分の認識が甘かったことを痛感した。
それからは24時間365日全てを捧げるつもりでデータ分析に明け暮れた。ベットと机しかない7畳のマンションで、年中カーテンは閉め切り、数字を追いかけ続ける日々。いつしか時間の概念は薄れ、昼夜の意識が無くなり、季節さえ分からなくなっていった。この頃はベットで寝た記憶が無く、気付くと机に突っ伏して意識が飛んでいるような生活だった。そんな生活が10年続いた。
後から振り返って見直すと、6年目くらいから結果が出ていた。しかし、当時は自我が薄れていたためかそれに気付かなかった。おかしなことに、数字は数字であり、その数字がお金であるという認識が飛んでいた。頭がぶっ壊れていたというかイカレていたのだ。10年して初めてお金持ちになっていることに気付いた。
鏡を覗くと髪は長髪で髭も長い。鼻毛も溢れんばかりになっていた。ところどころ穴の開いたスウェット、片方の袖はちぎれていた。数年ぶりにお風呂に入り、玄関の宅配ボックスを覗いた。意識したわけでも無いのに無意識に体が宅配ボックスを覗いたようだ。体が食べ物を欲したときに宅配ボックスに届いている宅配弁当を食べる。それがルーティンだったようだ。
とりあえず最低限の毛の処理をし、身なりを整え、近くの美容院に行った。その過程で自分の状態をある程度知ることが出来た。まず、体が思うように動かない。歩くとめまいがする。人が怖い。声が出ない。頭痛、動悸、お腹の中のあちこちが変な感じがした。
旅行バックに数日分の着替えを入れ、タクシーを呼んで病院に行き、そのまま2週間入院した。特に病気では無かったそうだが、あえて言うなら過労だそうだ。それと栄養状態も芳しくなかったそうだ。あとは筋肉量が著しく少なく、寝たきりの人のような体なのに過労という珍しい状態だったそうだ。
退院後に自宅マンションに帰ると怖くなった。机の椅子に腰かけるとまた何か変なモードに入り込んでしまいそうな自分がいたからだ。すぐに家を出て都心のビジネスホテルに向かった。電気ショップでノートパソコンを買い、2か月ほどホテルの部屋に引き籠った。まだ外を自由に歩き回ることに不安感があったし、人が怖く感じていたからだ。ホテルの部屋の中でストレッチなどのリハビリをしながら金融市場の動向を眺めて過ごした。
その後は都心にマンションを購入し、リハビリも終え、色々出歩いてみたり、繁華街に遊びに行ってみたり、人と交流してみたり、サッカー観戦してみたり、遊園地に行ってみたり、パチンコ店に行ってみたり、映画館に行ってみたり、登山してみたり、沖縄に旅行してみたり、とにかく色々なことを試してみた。
そして分かったのだ。大分普通に戻ったが、昔の自分には戻れないということに。それが病気なのか後遺症なのか性格の変化なのか判別することは出来ない。いずれにしても、昔の自分には戻れないことだけは理解できた。
今のあなたは人とのコミュニケーションが恐ろしく下手になっていて、そもそもコミュニケーションを取りたくないと感じてしまう。内向的で、インドア派で、家で引きこもり生活をすることを好んでしまう。
今のあなたは平日の決まった時間だけ仕事をし、それ以外は読書をしたりアニメやドラマを視聴して過ごしている。年収は2億円ほど。平均日給は110万円というところだろうか。
キャリアを捨て、交遊関係を捨て、普通の生活を捨て、気付けば結婚適齢期も過ぎている。パーソナリティも別人のようになり、たくさんの犠牲を払った。年収2億円はその代償に見合うだろうか。
会社の同期が順調に出世していれば年収は2,000~3,000万円ほどになっているはずだ。外資に転職して年収4億円という先輩がいたが、レアケースなので考慮しない方が良いだろう。お金ではなく名誉を求めて大学教授になった同級生もいる。お金も名誉も何も持たず趣味に生きている人、何もかもが平凡だけど家族のために生きてる人、色々な人がいるだろうと思う。
全てを捨てて年収2億円の人はどうなんだろうか。能力が高く、環境にも恵まれ、他の人よりも選択肢は多かったはずだ。
たくさんの可能性と選択肢の中で、あなたは全てを捨てて年収2億円を選んだ。あなたは満足感に浸っているだろうか。後悔はしていないだろうか。
最後に問います。
この小説の「あなた」を想像して、リアルのあなたはどのように感じますか?年収2億円。羨ましいですか?