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ティアマト彗星の核の本体から分離した破片の推進力源
新海誠監督・脚本のアニメ映画『君の名は』では、ティアマト彗星の核の本体から分離した破片(以下「分裂片」と呼称)が2013年10月4日20時42分に岐阜県飛騨地方にある糸守町に落下するというストーリーが展開されていました。 普通、彗星のような小天体が分裂した際には(分裂の原因が他の天体と衝突であったといった場合を除き)分裂した破片同士の相対速度は十分に小さいため、分裂してから間もない数日程度の間はどの破片もほぼ同じ軌道を描くものですから、「作中のテレビ報道において『ロッシュの限界の外を通過するだけなので地球に衝突する恐れはない』とされていたティアマト彗星の核」から分離した分裂片が、そのまま地球に落下するなどありえない話です。 然るに作中のティアマト彗星の分裂片は分裂直後に急激に移動方向を変えて地球に落下していました。 この事は分裂片が非常に強力な推進力を有していた事を示しています。 作中のテレビ報道における説明図では、当該彗星はやや斜めに追い抜く形で地球の後方を通過しておりました。 一方、男主人公である立花瀧が糸守町の事を調べている過程で、「近地点」(おそらく制作サイド側の知識不足による「地球との最接近時」の間違い)で彗星の核が砕けたとする瀧の声によるナレーションが入るシーンがありました。 これら2つの事柄から考えますと、彗星核が分裂した位置は地球軌道のやや内側で、地上において昼側の夕暮れに近い時刻となっている領域の真上という事になります。 その位置から夜側である20時42分の地域に落下するためには、地球と彗星核を結んだ直線に対して垂直方向の相対速度成分を0よりも小さいマイナスにまで減速(つまり少しバック)した上で地球に向かって加速しなければなりません。 では「地球と彗星核を結んだ直線に対して垂直方向の相対速度成分」を最低限どのくらい以下まで減速しなければならないのでしょうか。 まずティアマト彗星の地球軌道付近における速度はどの位になるかを考えます。 楕円軌道上の物体の速度は以下の公式で求める事が出来ます。 v=√(μ((2/r)-(1/a)) v:物体の速度 μ:重力源の標準重力パラメータ r:重力源と物体の重心間の距離 a:軌道長半径 同じ重力源の周囲を回る物体の場合、軌道長半径は軌道周期の2/3乗に比例し、作中においてティアマト彗星の軌道周期は約1200年とされているのに対し、地球の軌道周期は1年で、地球の軌道長半径は「地球の軌道長径である『地球の近日点距離1.471×10^11mと地球の遠日点距離1.521×10^11mの和』」の半分ですから、ティアマト彗星の軌道長半径は (彗星の軌道周期/地球の軌道周期)^(2/3)×(地球の近日点距離+地球の遠日点距離)/2 =(1200[年]/1[年])^(2/3)×(1.471×10^11[m]+1.521×10^11[m])/2 ≒1.689×10^13[m] そして太陽の標準重力パラメータは1.3271244×10^20m^3・s-2、地球の平均公転半径は1.49597870700×10^11mですから、地球の軌道と交差した瞬間のティアマト彗星の速度(太陽との相対速度)は v=√(μ((2/r)-(1/a)) =√(1.3271244×10^20[m^3・s-2]×((2/(1.49597870700×10^11[m]))-(1/(1.689×10^13[m]))) ≒4.203×10^4[m・s-1] という事で42.03km/sにもなります。 一方、地球の平均軌道速度は29.78km/sですから、もしティアマト彗星が地球の進む方向とと平行に移動しながら追い抜いた場合には彗星と地球の相対速度は 42.03km/s-29.78km/s=12.25km/s になりますが、作中でのティアマト彗星の軌道説明図では地球軌道に対してどう見ても直交に近い60度を上回る角度で交差していましたから12.25km/sの数倍の速度であったと考えられます。 分裂片はこれほどの速度差を減速して打ち消さなければ(彗星の分裂時点で後方にあたる)地球の夜側に位置していた糸守町に向かう事は出来ません。 しかも、必要となる速度変化はそれだけでは済みません。ティアマト彗星の核が砕けたのは地球最接近時の事なのでその時点における彗星核の地球と彗星核を結んだ直線に対して平行な方向の相対速度成分は0という事になりますが、初速度が0の状態から地球の引力のみによって加速した場合、例え無限遠の彼方から落下を開始したとしても地表に到達した時点での速度は第2宇宙速度である11.186km/sにしかならないのに対し、分裂片か落下を開始したのは無限遠よりもずっと地球に近い(即ち高度がずっと低い)所からですし、小説版の『君の名は』では分裂片の落下速度が30km/s以上とされているそうですので地球の引力のみによって加速した場合よりも18km/s以上も高速で落下した事になります。 そのため、分裂片の地球と彗星核を結んだ直線に対して平行な方向の相対速度成分の初速は 分裂片の初速≧√((30[km/s])^2-(11.186[km/s])^2)≒27.837[km/s] 27.837km/s以上もあった事になります。 地球と彗星核を結んだ直線に対して垂直な方向の相対速度成分が12.25km/s超、地球と彗星核を結んだ直線に対して平行な方向の相対速度成分が27.837km/s以上なのですから、結局必要となる速度変化は √((12.25[km/s])^2+(27.837[km/s])^2)≒30.41[km/s] 30.41km/sを上回っている事になります。 つまり分裂片はティアマト彗星核本体から分かれた際か或いは分かれた後に30.41km/sを大幅に上回る加速をしなければ糸守町に到達できない訳ですが、そんなとんでもない速度変化を生み出した推進力が判りません。 燃焼温度が3000度前後にもなる上、水素を多めにしてガスの平均分子量を小さくする事で排気速度を増加させている液体水素/液体酸素ロケットの噴射ガスの速度ですら4km/s前後にしか過ぎません。ましてや氷で出来ているために0℃以上の温度にはならない彗星核では氷から昇華した水蒸気の圧力も611Pa(≒0.00603気圧)未満に過ぎませんから、水蒸気等のガスの圧力や噴出で生まれる推力などたかが知れています。 いったいどうやってティアマト彗星から分かれた分裂片はこれほどまでの速度変化を成し得たのでしょうか?
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>いったいどうやってティアマト彗星から分かれた分裂片はこれほどまでの速度変化を成し得たのでしょうか? 設定の力が働いたのだと思います。
- head1192
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彗星には水という揮発成分が大量に含まれており、それらの噴出の程度によってはロケットのエンジンのように物体を大きく加速することがあります。
- goodmorning11
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スイングバイによる加速と重力のちから関係の変化ですかね?
お礼
御回答者頂き有難う御座います。 スイングバイや重力ですと、初期の位置と速度ベクトルが同じ彗星核本体も同じ力が加わって、分裂片と同じ方向に同じ速度で進む事になりますから、 >分裂してから間もない数日程度の間はどの破片もほぼ同じ軌道を描く のにかわりはありません。 ですので、スイングバイや重力で分裂片だけを方向転換させるのは無理です。
お礼
御回答者頂き有難う御座います。 必要となる速度変化量が30.41km/sを超えているのに対し、実在のロケットは単段で10km/sを大きく超える速度を出せるものは存在しておりませんから、 >ロケットのエンジンのように 程度では全く足りません。 その上、質問文中でも述べておりますように、主に氷で出来ている彗星核では水蒸気の噴出圧力がロケットエンジンとは全く比較にならない程低いため、ロケットと比べて噴出の程度は極めて低くなりますので、仮に1ヶ月かけて噴出し続けたとしても噴出した蒸気の総量が少な過ぎて必要な速度変化を得るのは不可能であり、ましてや(糸森町の日没後に分裂した破片が、落下時刻の20時42分までの)数時間程度の短い時間では考えるまでも御座いません。