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唯名論

serpent-owlの回答

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回答No.2

 普遍論争で「実在論」と対立した「唯名論」ですね。「噛み砕いて」とのことですが、そのためには「実在論」と対比して示したほうがわかりやすくなると思いますので、そうさせていただきます。  まず「普遍論争」というのは11世紀後半から14世紀にかけて続いた中世スコラ哲学最大の論争です。一方は「実在論 realism」陣営、一言で言えば「普遍は個物に内在する」と考える立場。他方は「唯名論 nominalism」陣営で、これも一言で言えば「普遍は名辞・呼び名にすぎない」と考える立場です。(なお、realismの訳語としては従来「実念論」というのが一般的でしたが、誤解を招く部分があるので最近は「実在論」と訳されます。)  では実在論から。  「普遍は個物に内在する」とはどういうことか。「人間」を例にとります。現実に存在する人間には、もちろんそれぞれの個性があります。容貌もちがいます。そういう個別にちがう部分をどんどん削り取っていけば「人間」の共通部分が残るのではないか、「人間」というものの普遍的な形が得られるのではないか、というのが実在論の発想です。さらに、こうして得られた普遍的な形が実在しているのだと、この立場は主張するのです。  と言っても、その「普遍的な形」が単一のモノとしてどこかに存在しているわけではありません。複数の人間それぞれの中に、その数だけ置かれており、しかし一切のちがいは除去されていますから、まったく同一のもの、区別できないものとして存在している、というわけです。  対するに唯名論。  「普遍は名辞にすぎない」。言い換えれば、「普遍」はモノとして事物に内在しているのではなく、外から付けられた呼び名でしかないということです。三角形は3本の直線から成りますが、実際にはいくらでも多様な形が作れます。「それらに共通する普遍的な三角形」と言われても、困りますでしょう? どんな三角形でも、三角形なら、立派に三角形なんですから。となれば、「三角形の普遍」とは「3本の直線から成る図形」すべてを一括して呼称する「三角形」という呼び名なのだ、と言った方がよい。  「昆虫」でもいってみましょうか。「人間」ならば、いくらか「普遍的な形」がイメージしやすいのですが、昆虫となるとたいへんです。トンボとちょうちょ…とか…共通する「形」が実在するものとして考えられるか…うーん…ちょっとムリそうでしょ? 昆虫の場合、言えるのは「頭・胸・腹の身体と6本の足を有する節足動物」ということであって、この定義によって共通する性格をもったものを「昆虫」と呼んでいるだけです。  という感じに、「普遍は唯の名前だ」と考えるのが「唯名論」です。  ちなみに、実在論と唯名論を統合する第三の立場として「概念論」という立場もあるのですが、誰をこの立場に立った人と分類するかという点に問題があり(分類しきれないのです)、そうなるとこの「概念論」なる立場の内実も非常に規定しにくくなりますので、これに関してはプロの研究者でも言及には慎重になります。つーわけで、私ごときにはこれの解説はできません。  …と、書きに来たらAliasさんの回答が…。  えっと…実はその…Aliasさんが紹介されている「観念(イデア)として実在」という部分がですね、「実念論」という訳語がもたらす誤解なのです。実在論はプラトン哲学との直接の関係はありません。実在論の主張は、あくまでも「モノとして実在する」ということだったのです。

mako30
質問者

お礼

serpent-owlさん、詳しい説明ありがとうございました。非常にかみ砕いて下さって、とても分かりやすかったです。何を読んでも、さっぱり分からなかったもので、助かりました。みなさんの解答から、非常に勉強させていただきました。 ありがとうございました。

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