島耕作が、なぜモテるか。それは女性との会話、ことに女性に本音を語らせてしまう
雰囲気づくりとその受け答えの優しさ。
ヒューマニズムの極みみたいな一言を言う。また、ときどきしくじるのだけどその
フォローがウィットに富んでいてじんとさせる。ここぞというところで、女性の期待を
裏切らないところが島耕作の真骨頂ではないでしょうか。
田名網の女将との一夜で身の上話を聞き、
「私はお金に執着するのそういう経緯かも。
私のこと嫌いになった?」
「いいや、大好きになった。」
素直に本音を語る相手をまるごとうけとめる姿勢。
大町久美子の誕生日の蝋燭の本数が一本たりなくて、東京タワーを代用する有名なシーン。
島耕作の美学は、今の世代からみたら古臭いかもしれないが、品性の高さ、一流の人間で
あるという矜持を感じさせる。人間として恥ずかしくない生き方、やってはいけないこと
やるべきことをわきまえて生きている。
簡単なことでも、言動のなかには現れる。ことに修羅場に遭遇したとき、人に裏切られたとき、
窮地に立たされたとき。
それは、島耕作が誠実に人と接してきた証をみるようで、いささか書生っぽい青臭さを
感じるものの、それが女ごころには
「かわいく」「抱きしめたくなる」のだろう。
今は続いているのかどうかしらないが、島耕作のシリーズは毎回ジャズのスタンダード
の曲名がサブタイトルに冠されていた。
サラリーマン出世物語はややもすると義理と人情の湿っぽい話になる。もちろん毎回描かれるのは、
純然たる浪花節と権力闘争と欲得話だが、それを乾いた大人の粋につつんでさらに濡れ場を
からめることで上質なエンターテイメントにしようとした作者の工夫であろうと私は読んでいる。
おそらく作者は、自身のサラリーマン生活の見聞以外に、相当量の取材を行ったに違いない。
銀座のママ、料亭の女将は、「モテるビジネスマンのエピソード」にはことかかない。
作者「どんな男がモテるの」
ママ「秘密を守れる男
弱い者を守れる男気のある男
でも、ちゃんと勝ち組に入っていなくちゃダメ
嫉妬深いのはだめ。かといって執着しないのもこまるけど
冷たい男って魅かれるわね。」
作者「どんなときに好きになっちゃうの?」
ママ「小さな約束でも忘れずに約束を守ってくれたり
こっちの身の上話を熱心に聞いてくれて、やさしい一言をかけてくれたり
それと、男のひとが一生懸命頑張っている姿っていいなぁと思っちゃう」
なんてな話を、作者が集約して島耕作一身に演じさせてしまう。
こりゃ日本一モテる男になるわけで、ぼくらは早くからこの漫画を
自分のナンパの教科書に使っていた。
7年前、
「もう島耕作専務になっちゃった。それに比べて俺ずっと部長のまま
(課長になったのは俺の方が早いのに)」
会社の下の書店の女の子に本を渡しながらつぶやくと
「この人早すぎます。」
にこっと笑ったその娘がうつむいたときワンピースの胸もとから胸の谷間が
覗いてなんだか慰められた気がした。
島耕作はナンパでなく出世の教科書に使えばよかった。
早く 「老人ホーム・島耕作』が読みたいなぁ。大町久美子の目を盗んできれいな婆さんと
手を握り合っていたりするのもいい。寿命がつきるまでモテ続けていてほしい。
タイトルはThe End of the World
お礼
回答ありがとうございます。 exhivisionist さんにはまあ度々御回答賜り、また私が回答者となった過去もありましたが、大変僭越ながら今回書き下された内容を拝読した感想を率直に申し上げると、「 う~ん 」と唸らざるを得ない力作にして最高傑作、そういう評価に落ち着いてしまいます。 何しろ御自身の感性と引用のミクスチャーが素晴らしい、それを玉石混交の中から引っ張り出して来れるというのも、またセンスの一つでしょうから。 さて本質問を投稿致しまして後、元奥様の事やあれやこれやで、実は不謹慎にも exhivisionist さんの存在が頭を過りました、万一お気に障りましたら何卒御容赦頂きたいのですが・・。 >簡単なことでも、言動のなかには現れる。ことに修羅場に遭遇したとき、人に裏切られたとき、窮地に立たされたとき。 >それは、島耕作が誠実に人と接してきた証をみるようで、いささか書生っぽい青臭さを 感じるものの、それが女ごころには「かわいく」「抱きしめたくなる」のだろう。 この辺りの女心の機微をもう少し早くに知っておれば、私ももう少し女性にモテたかも知れない、まさに 「 遅かりし由良之助 」 でありまして、非常に残念です。 >「私はお金に執着するのそういう経緯かも。 >私のこと嫌いになった?」 >「いいや、大好きになった。」 これは凄い歯切れと間の良さ、私が女性でも間違いなく惚れちゃうでしょう、島耕作・恐るべしです。 >サラリーマン出世物語はややもすると義理と人情の湿っぽい話になる。もちろん毎回描かれるのは、純然たる浪花節と権力闘争と欲得話だが、それを乾いた大人の粋につつんでさらに濡れ場をからめることで上質なエンターテイメントにしようとした作者の工夫であろうと私は読んでいる。 弘兼さんという方は、シニア世代へのメッセージをライフ・ワークと心得ておられる気がしますねぇ。 ビジネス・シーンに恋愛を絡めた「 課長 島耕作 」 よりも、更に中高年の恋愛にウエイトを置いた作品に 「 黄昏流星群 」というものがありまして(御存知かとは思いますが・・)、私はその全巻を揃えております。 >作者「どんな男がモテるの」 >ママ「秘密を守れる男 >弱い者を守れる男気のある男 >でも、ちゃんと勝ち組に入っていなくちゃダメ >嫉妬深いのはだめ。かといって執着しないのもこまるけど >冷たい男って魅かれるわね。」 >作者「どんなときに好きになっちゃうの?」 >ママ「小さな約束でも忘れずに約束を守ってくれたり >こっちの身の上話を熱心に聞いてくれて、やさしい一言をかけてくれたり >それと、男のひとが一生懸命頑張っている姿っていいなぁと思っちゃう」 時に非常に難解な事をお書きになられる exhivisionist さんのメタファーを紐解くには、それ相応の想像力を働かせねばなりませんが、先の対談形式の始終は恐らく貴兄の感性でお書きになったもの、そういう事でしょうか?。 それにしても参り申した。 いや~深い!、実に深い着眼点でありまして、さすがは・・と唸ってしまったこの私、まさにモテる男になる為金言集の趣きでして、そのエキスが全て網羅されている気がします。 恐らくこの一文を読む人が読めば、その深さに脱帽する事必定ではないでしょうか? 一方に於いて、その種の男性を装うのも恐らく限度がある、即ち女性とはほぼ例外無く鋭敏な生き物ですから、化けの皮が剥げるのにそう時間は掛からないでしょう。 モテる男とそうでない男の分水嶺、その全ては持って生まれた資質とポテンシャル、そういう事かも知れません。 >7年前、「もう島耕作専務になっちゃった。それに比べて俺ずっと部長のまま (課長になったのは俺の方が早いのに)」 現在の私がまさにそのポジションにおりまして、先行きの不透明感が何とも微妙ですが・・。 さて先の一文のみ拝読しても、私などはまだまだ修行が足りない、今後とも御指導御願い致します。