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出来事を物語に「紡ぎ上げる」?「紡ぎだす」?
1311tobiの回答
- 1311tobi
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いま頃済みません。 質問を目にしたときから気になっていたのですが、調べてみるとあまりにも奥が深くて。 結論を書くと、「バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎだす」はちょっとヘンだと思いますが、理由を論理的に説明するのはむずかしいようです。 「バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ上げる」ならさほどおかしくはないでしょう。 当方は長年校正の仕事もしています。 もし、担当編集者から「赤ペン入れてください」というリクエストがあった原稿なら、この部分はリライトします。具体的な添削例をつくるには、前後の文脈(重言)がないと……。 詳しくは下記をご参照ください。 【紡ぎ上げる 紡ぎ出す 教えて! goo 辞書】 http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-3168.html 辞書の引用などがあってかなり長いので、一部を抜粋(重言)します。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 少しでも前に進むために、類似の表現を並べる。「~(し)だす」は「~(し)出す」と表記する。 1)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ上げる 2)バラバラの出来事から1つの物語を紡ぎ上げる 3)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ出す 4)バラバラの出来事から1つの物語を紡ぎ出す 5)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぐ 6)バラバラの出来事から1つの物語を紡ぐ 当方の感覚だと、1)~6)のうち3)は△。 なぜそうなるのかを考え始めると、きわめて微妙な話になる。 【1】「~(し)上げる」になりやすい動詞/「~(し)出す」になりやすい動詞 まず考えなければならないのは、「~(し)上げる」「~(し)出す」の意味。 辞書の引用は末尾に。 大前提として「~(し)出す」の〈イその動作を始める意を表す〉は意味がかわってくるので無視する。 「~(し)上げる」は〈アその動作が終わる意を表す。「仕事を早くし―・げる」「一日で織り―・げる」〉だろう。 「~(し)出す」は〈アそうすることによって外や表面に現れるようにする意を表す。「しぼり―・す」「見つけ―・す」〉だろう。 「~(し)上げる」「~(し)出す」を使う言葉をいくつかあげてみる。 作り上げる 作り出す 編み上げる 編み出す ※「編み出す」は「編み物」から離れる 織り上げる △織り出す ※「織りなす」はアリでも、「織り出す」は異和感がある。 書き上げる 書き出す ※「書き出す」は意味がちょっと違うかも。 汲み上げる 汲み出す ※この「上げる」は物理的な「上昇」の意味合い。 しぼり上げる しぼり出す ※「しぼり上げる」は原義を離れて抽象的な意味。 △踏み上げる 踏み出す △飛び上げる 飛び出す △生み上げる 生み出す こうして見ていくと、「~(し)上げる」「~(し)出す」の両方が使える動詞は少ない印象がある。 あえて分類するなら、コツコツと積み上げていくイメージのものが、「~(し)上げる」になりやすい。コツコツと積み上げた結果、作業が終わると「~(し)上げる」になる。瞬間的な動作のイメージが強いものが「~(し)出す」になりやすい。 「作る」は、コツコツと積み上げていくイメージと、「生み出す」と同じように新しいものを「作り出す」ニュアンスの両方をもっている。 「編み出す」は「編み物」から離れて、別な意味で使われる。「画期的な方法を編み出した」……etc. 「織り出す」は△だろう。 そう考えると、「紡ぐ」は「紡ぎ出す」にはしにくくなる。 【2】「紡ぎ出す」の特殊性 ここで「紡ぐ」の意味を考える(辞書の引用は末尾に)。 簡単に言ってしまうと、「(綿や繭を)糸にする」ことだろう。ここから派生した意味に関して『大辞泉』『大辞林』はまったく触れていない。 頓挫しかけたが、『実用日本語表現辞典』に「紡ぎ出す」の項があった。 ==============引用開始 (1)あたかも綿から綿糸を紡ぐように、細やかな作業によって言葉や作品を形にしていくこと。比喩的な表現で、この用法が一般的に用いられている。織り成す。 ==============引用終了 なぜこの記述が『大辞泉』や『大辞林』にないのかは知らない。さらに言うと、「紡ぐ」にも原義から派生して「言葉や作品を形にしていくこと」とあっていいはずだが、見当たらない(泣)。 ということは、この意味で「紡ぐ」は使えないことになる。そうなると当然、「紡ぎ上げる」も使えない。 個人的には比喩的な表現で「(物語などを)を紡ぐ」もアリだと思うが、根拠は示せない。 【3】「を」か「に」か 「紡ぐ」(「紡ぎ上げる」「紡ぎ出す」も同様)の前に来るは何が適切か。 フツーに考えれば「~を紡ぐ」だろう。「~に紡ぐ」は情緒的な表現のにおいがする。とは言え、「糸に紡ぐ」ならさほど不自然に感じられないので、「(物語など)に紡ぐ」を間違いにする理由も思いつかない。 【4】「3)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ出す」はなぜ△か 3)が△なら、「1)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ上げる」「5)バラバラの出来事を1つの物語に紡ぐ」も△になるはず。だが、1)5)ならさほど不自然に感じない。この理由がわからない。 ちょっと強引なのを承知で理由づけてみる。 原形とも言える5)は辞書にはないが、比喩的な表現で「言葉や作品を形にしていくこと」と解釈できる。その動作が終わる(完成する)ことを表わすのが1)。 一方「紡ぎ出す」は、本来の意味を離れている。 本来の意味を離れているぶん、「糸に紡ぐ」のイメージから離れる。そうなると、「物語を{作る/書く/生む}」などのように、「を」が自然に感じられるのでは。 以下は余談。 そういうメンドーな理屈を別に、仕事のゲラで「バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ上げる」という文章が出てきたら、チェックを入れる。『実用日本語表現辞典』にあるように比喩的な意味なら「紡ぎ出す」のほうがいい、という意味ではない。 文脈がないと何とも言えない気もするが、「バラバラの出来事を1つの物語に紡ぎ上げる」には強い異和感がある。「バラバラの出来事から1つの物語を紡ぎ上げる」にしても大差はない。 ミステリーで「一見バラバラの出来事から1つの結論を導き出す」くらいなら自然。「ありふれた日常を1つの物語に仕立て上げる」もおかしくないだろう。 「紡ぐ」を使うのなら……「ありふれた日常を鋭い感性で見つめて傑作を紡ぎ出した」ならさほどおかしくないだろう。 そう考えると、一番気になるのは「物語を紡ぎ出す」が「曲を作曲する」のような重言に感じられることかもしれない。 重言に関しては下記参照。 【重言の話4(第1稿)】 http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-863.html ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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