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電流と、電子の動きの関係について

siegmundの回答

  • siegmund
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回答No.19

物理屋の siegmund です. 状況を整理し,あわせていくつかコメントしたいと思います. 以下の話は金属を念頭に置いています. また,無茶苦茶な強電場だと話が違いますが,そういうことは対象外です. 先に結論を書いておきます. hagiwara_m さんや d9win さんは電子速度が変化する と physicist_naka さんの電気伝導に関与する電子数が変化する, という見方です. 私の見解は,見方の違いということで,No.13 の hagiwara_m さんのコメントと 同じです. 古典的に考えれば,電場の強さが2倍になれば伝導電子の速度が2倍になり, (電流密度) = (電子電荷)×(伝導電子密度)×(伝導電子の速度) で,電流が2倍になります. こちらはほとんど疑問の余地がないようです. No.11 で physicist_naka さんもそのように書いておられます. 問題は No.8 の physicist_naka さん以降の量子力学的考察です. 簡単のため1次元にして,背景の正イオンは塗りつぶして自由電子としておきます. この状況では電子の固有状態は波数 k で分類できます. ε(k) = (h/2π)^2 k^2 / 2m (m は電子の質量)がエネルギーになります. h はプランク定数. 波数 k に対して,(h/2π)k が「運動量」v = (h/2π)k/m が「速度」です. ただし,この「運動量」「速度」の概念には注意が必要です(後述の※1). 電子はフェルミ粒子ですから, 同じ状態に2つ(スピンの↑と↓で2つです)しか入れません. したがって,電子が多数個あると,エネルギーの低い方から順に詰めていくことになります.   図1    ↑  空空空○○○○○○○空空空    ↓  空空空○○○○○○○空空空          |  0  |    k     -kF     kF 詰め終わった時の一番大きい k の値が kF (フェルミ波数)です. kF に対する運動量がフェルミ運動量,速度がフェルミ速度,です. 図1の状況では,正の速度の電子と負の速度の電子とが同数あるので, 正味の電流は流れません. この電子系に電場 E をかけます. 電場 E は電子(電荷 -e)に対して力 F = -eE を与えます. 電場はずっと(時間的にずっとという意味)かかっているのですから, 電子はいくらでも電場からエネルギーをもらってしまいます. 古典的に言えば,電子の速度はどんどん際限なく早くなってしまいます. ちょうど,重力加速度を受けているときと同じです. 実は,電気伝導率が無限でなくて有限値になるには何らかの散乱(衝突)機構が必要です. 通常は,この機構は格子振動(フォノン)と不純物です. なお,伝導電子が抜けたあとの原子は正イオンになっていますから これも電子に散乱を与えますが, 周期的なポテンシャルによる散乱は電気抵抗に効かないことが Bloch (ブロッホ)の定理として知られています 格子振動があると正イオンの配列の周期性が乱れますから, 電気抵抗に寄与するのです. 不純物が周期性を乱すことは明らかでしょう. さて,電子は平均τの時間で散乱され,それまでの運動の記憶を失うとしましょう. 古典的に言えば,どの方向に散乱されるか分からないから, 平均速度ゼロから加速のやり直し,ということです. 従って,電場によるフェルミ分布のずれは (1)  (h/2π)δk = Fτ  ⇒  δk = Fτ/(h/2π) = -eEτ/(h/2π) で,分布は図2のようになります.   図2    ↑ 空空空●●○○○○○空空空    ↓ 空空空●●○○○○○空空空          |  0  |    k     -kF     kF 図では大分派手にずれているように描いていますが, 実際にはずれの割合はごくごくわずかです. 図2と電気伝導の関係は, (A) 分布全体がδk だけずれた (B) ○の電子の電気伝導への寄与は正負で打ち消しあって,    ●の部分の寄与だけが残る. の二通りの見方ができます. hagiwara_m さんや d9win さんの見方は(A) (No.13 参照) physicist_naka さんの見方は(B)ということです. 図2のような議論をもう少し精密化したのが,Boltzmann (ボルツマン)の輸送方程式に よる方法です. これは,電子の分布が電場によってずれる効果と元に戻ろうとする効果のバランスを 考えようという思想です. 実は,τ自体が波数 k に依存するのですが,○の部分の打ち消しあいが起こるのは同じことで, 電気伝導にはフェルミ面付近のτが効きます. ここらへんの事情は physicist_naka さんが書かれているとおりです. 他にもっとミクロな立場からの方法として,線形応答理論とグリーン関数を組み合わせた 方法があります. この方法は日本の久保亮五,松原武生による寄与が非常に大きい. この方法でもフェルミ面付近のτが効くことは同じです. (※1) 「運動量」「速度」という概念には注意が必要です. 古典的には,粒子が x 方向に速度 v (v>0)で動けば, 粒子は x 軸の正の方向へ文字通り動きます. つまり,ある場所で観測すれば,粒子はその場所を通過して行ってしまいます. ところが,波数 k で指定される平面波の状態 (波動関数ψは係数を別にして exp{-iε(k)/(h/2π)}×exp(ikx))は そういう風にはなっていません. これは定常状態ですから,ある場所で粒子密度の期待値は時間的には 一定のままで「通過して行ってしまう」ようには見えません. 実際,(ψ*)ψは定数です. したがって,古典的に速度 v で動いているというイメージとはかなり違い, 電子の速度が v という表現には注意を要します. このあたりの事情は,「原子の周りを電子が回っている」という話とほぼ同様です. なお,確率の流れの密度 {i(h/2π)/(2m)}×{ψ* (dψ/dx) - (dψ*/dx)ψ} はちゃんと値をもちます. これは,原子核の周りの電子があたかも周回しているような角運動量をもつ(s軌道を除く) ことと類似しています. したがって,「フェルミ面付近の電子はフェルミ速度で動き回っている」という表現は 「原子の周りを電子が回っている」という表現と同等の意味しか持ちません. (※2) No.12 の physicist_naka さんの記述は, 電場をかけてもフェルミ面内部の電子の状態は変わらないように読みとれるのですが, そうではありません. ポテンシャルは一粒子状態のエネルギーのシフトを引き起こしますから, すべての状態の電子のエネルギーが変化します. フェルミ面付近が大事というのは,フォノンや不純物による散乱確率の計算の際の話です. physicist_naka さんの No.14 の > しかし、もっと厳密な公式では、フェルミ速度を持った電子の > 性質だけで書かれるのです。 は恐らく線形応答理論+グリーン関数の話と思いますが, この枠組みでは計算は電場のない状態で行われます. その代わりに,電流そのものの期待値ではなくて, 電流相関という多少面倒な量を計算しないといけません. (※3) hagiwara_m さんは No.13 で > 導体中を、格子に散乱されながら飛び回る電子は、 > このフェルミ分布の上限付近の(温度の影響で)ボケた領域にある電子に限られます。 と書かれています. 電子比熱の議論では確かにそうなのですが(格子はとりあえず関係ありませんが), 電気伝導ではフェルミ面の温度によるボケは重要ではありません. 不純物散乱による電気抵抗率が温度によらないことはその帰結です. また,フォノンによる電気抵抗率は低温(デバイ温度に比べて)で T^5 に比例しますが, 5乗の内3乗はフォノン数, 2乗は電子の散乱確率の角度依存性がフォノンの波数に関係することによっていて いずれもフォノン由来です. (※4) No.18 の d9win さんの > No.12回答にあります > 「フェルミ速度よりも小さい速度を持つ電子は運動状態を変化できない」状況は、 > それが金属原子核に捕獲されていることに対応しています。 はちょっと誤解があるようです. 原子核の束縛を離れた電子だけ考えようというのが自由電子気体モデルですが, このモデルでもフェルミ面は存在します. でも,フェルミ面の十分内部の電子も結晶全体に広がっていて, 決して原子核に束縛されているわけではありません. そもそもこういうモデルでは原子核に束縛された電子は最初から考えていません.

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