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内殻準位の化学シフトと電荷密度の関係(XPS/ESCA)
こんにちは。XPSに表れる化学シフトについて質問させてください。 XPSの化学シフトには分子内の化学的環境が反映されていて、励起対象である原子周辺の結合状態の違い(電荷密度の違い)によって内殻のイオン化ポテンシャルが変化することがその原因であると聞いています。電荷密度の違いによって、外殻電子による内殻電子に対する遮蔽が異ってくるために、内殻電子の束縛エネルギーが変化する、という説明を受けました。 そこで質問なのですが、なぜ電荷密度と内殻イオン化ポテンシャルにそういった関係が表れるのか、よく理解できないでいるのです。そもそも、この説明を正しい理解と考えていいのか疑問があるのです。 例えばアセトン分子CH3C(O)CH3の炭素内殻領域のXPSを考えます。 アセトンには化学的環境の異なる2種の炭素原子(仮にC1とC2)があって、化学シフトが表れると思います。 確かに、隣接原子の電気陰性度の違いから、上述の電荷密度変化によるモデルを用いて説明はできます。 しかし、イオン化ポテンシャルの値が“基底状態とイオン化状態の全エネルギー差(下記の式)”によって計算されることを考えると、(基底状態はどの炭素をイオン化する場合でも同じだから、)それぞれのイオン化状態の安定性がカギになると思うのです。 IP = E(C1をイオン化) - E(基底) IP = E(C2をイオン化) - E(基底) ←E(基底)はどちらも当然同じはず・・ なので、基底状態における電荷密度の違いが化学シフトに関係するということは、それがイオン化状態の安定性にも影響を与えるということになると思います。 質問をまとめると、まず、 ・電荷密度の違いに起因する外殻電子の遮蔽の違いが内殻の束縛エネルギーを変化させるという説明はあくまでごく定性的なもので、正しい理解ではないのではないか。 ・基底状態の電荷密度とイオン化状態の安定性にはどのような関係が考えられるのか。 ということです。 そして、いろいろと書きましたが、教えていただきたいのはつまり ・XPSの化学シフトは何が原因で起こるのか ということに尽きます。。 若輩者ゆえ全く的外れな考えをしているかもしれませんが、何卒ご容赦ください。 それでは、些細なことでも結構ですので回答、アドバイスをよろしくお願いいたします。
- gedo-syosa
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私の専門外の話題なので、はずしているかも知れませんけど、参考文献と教科書を。 N. Måtensson, A Nilsson "On the origin of core-level binding energy shifts" J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 75, 209-223 (1995). http://dx.doi.org/10.1016/0368-2048(95)02532-4 日本表面科学会編,X線光電子分光法 7章 状態分析 http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocDetail?txt_docid=NCID%3ABA3663278X
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- eatern27
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>よろしければ参考にされた文献・教科書等を教えていただけますでしょうか? すいません、流通していない文献を参考にしましたm(_ _)m 専門外なので、入手可能で参考になりそうな文献も知りません。
お礼
いえいえ、こちらこそご迷惑おかけして申し訳ないです。どうやら先日のお礼で書いた“イオン化時間”なるものは関係ないみたいですね。クープマンズの定理で得られるイオン化ポテンシャルが基底状態の電子状態を反映していて、ΔSCFで得られるイオン化ポテンシャルにイオン化状態での電子状態変化による項が加わってくる、というような解釈をするのが一般的なようです。おかげさまで勉強になりました。何度もお返事をいただきありがとうございました!
- eatern27
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>“基底状態とイオン化状態の全エネルギー差” 「基底状態」ってのは始状態(電子をたたき出す前) 「イオン化状態」ってのは終状態(電子をたたき出した後) の事を指しているという事でいいんですね? #1に書いたような理由による、始状態の1電子軌道のエネルギー準位の違いも化学シフトに寄与するし、 貴方の考えている(多分)ような、終状態に内殻電子がいないことによるその他の電子の緩和(軌道の変化に伴うエネルギーの変化)も化学シフトに寄与する という事のようですよ。 ・・・というので回答になっていますかね^^;
お礼
再びの回答をありがとうございます。 とすると、1s軌道のエネルギー準位変化から化学シフトを求める方法も、軌道緩和(電子再配置?)を考えた状態間の全エネルギー差から化学シフトを求める方法も、どちらもあくまで近似ということで落ち着きそうな気がします。 僕もしばらく考えていたのですが、つまり実際にはイオン化と軌道緩和が同じ程度のタイムスケールで起こって、基底状態の1sの軌道エネルギー変化とイオン化状態の全エネルギー変化もどちらも考慮する必要があるということですかね。。これについては”化学”の方の掲示板で再度質問してしまいました。 間違いがあればご指摘くださると嬉しいです。お陰様でなんとなく理解できてきました。もうしばらく回答をお待ちしています。
補足
よろしければ参考にされた文献・教科書等を教えていただけますでしょうか?周りに聞ける人もいないし、あまり参考文献が見つけられなくて。。Web上のものでも構いませんので。宜しくお願いします。
- eatern27
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原子が正に帯電しているほど(電子がより強く引き戻されるので)、内殻電子を外にたたき出すのが大変そうですよね。 正に帯電している→価電子が小さい たたき出すのが大変→束縛エネルギーが大きい と置き換えてやれば、 「価電子が小さいほど電子の束縛エネルギーが大きい」 という事になりますよね。 簡単なモデルで考えるのであれば、外殻電子が半径r0(~イオン半径)の球面上に一様に分布していると考えるのが分かりやすいでしょう。 この外殻電子の作るポテンシャルは球の内部ではe/r0となります。つまり、外殻電子1個当たり、内殻電子のエネルギー準位がe/r0だけ持ち上がる(束縛エネルギーが小さくなる)訳ですね。 もっとも、実際にはこれ以外の効果もあってとても複雑なようですが、ちょっと調べた感じでは、遮蔽云々ってのはこの事を言ってるみたいですね。
お礼
回答をありがとうございます。 確かにそういった説明がよくされていて、理解もできるのですが、イオン化ポテンシャルを質問に書いたような“基底状態とイオン化状態の全エネルギー差”で考えるようにすると、そういった“基底状態の電子の出やすさ”のような概念は無関係となり、あくまでイオン化状態の安定性がイオン化ポテンシャルを決めるのではないかと思うのです。 基底状態とイオン化状態の軌道エネルギーが等しいと仮定(凍結軌道近似?)をして、クープマンズの定理を用いてイオン化ポテンシャルを考える場合は、1s軌道のエネルギーがそのままイオン化ポテンシャルとなるので、基底状態の電荷分布は重要であると思います。 ただ、実際のイオン化状態では電荷の再配置が起こり軌道エネルギーが変化するので、まじめにイオン化ポテンシャルを決めるには上記のように全エネルギーの差から求める必要があると思います。 いまの僕が考えているのは、“基底状態における電荷分布”と“イオン化状態における電荷の再配置による安定化”に相関があるために、化学シフトの説明に(あくまでごく定性的に)電荷分布を使うことができるのでは、ということです。 引き続き、アドバイスをお待ちしております。 ---- ちなみに、いま想定しているのは最もシンプルな気相単分子系で、表面吸着等の効果は考えないことにしています。
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お礼
文献紹介ありがとうございます。非常に参考になりました。クープマンズの定理を使う方法とΔSCFの方法で、基底状態の電子状態と正孔状態の軌道緩和などを分けて考えるようですね。おかげさまですっきりしました!化学の方で戴いた回答も含めて、お世話になり感謝いたします!