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ゴーギャンの絵画技法
先日、ゴーギャン展を観に行きました。どちらかというと、絵画そのものより、『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』というタイトルに引き込まれてのことです。それでも、ゴーギャン独特の輪郭の描法や、色彩の濃淡の付け方は、強く印象に残りました。 私は、絵はまったくの素人ですので、調べても詳しいことはよくわかりません。そこで、美術に造詣の深い皆さんに、いくつか質問いたします。 【Q-1】 ゴーギャンの最も特徴的な技法は、どういうものでしょうか? 【Q-2】 ゴーギャンの技法は、初期から晩年に掛けて、どう変化したのでしょうか? 【Q-3】 ゴーギャンに類似した技法を用いた画家は誰でしょうか? 【Q-4】 ゴーギャンの作品の中で、あなたが最も好きな作品と、その理由をお教え願います。 【Q-5】 あなたは、ゴーギャンをどう評価しますか? 以上、ド素人にもわかるようにお答え願います。
- pokoperopo
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1・ゴーギャンはタヒチに渡って絵を描いていたので常に画材に困窮して いました。そこで貨物船などの荷物の麻袋などに地塗りをして絵を描いて いたようです。特徴的な技法というと薄塗りで平塗りで表現する でしょうか。そのことでゴッホと口論になったぐらいですから こだわりがあったようです。まるでタペストリーのように 色面で画面を構成しています。 2・初期のころは簡単にいうと度の過ぎた日曜画家みたいな存在ですから アカデミックな画法をやってますよ。でもすぐに印象派のような 明るい画面でタッチで描く絵に変わってますね。シスレーに 似ているでしょうか。晩年はQ1で書いたとおり色面で平面的な 画面構成になりました。 3・ナビ派というものがありましてですね、ゴーギャンを信奉して 象徴的なモティーフと色面で構成するのを身上にしていた 集まりがあります。ボナールなんかにてますかね。 4・残念ですがゴーギャンはあんまり好きじゃないんですね ”我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか” は有名ですかね NHKの世界遺産のOPで使ってる絵です。 5・ひねくれたオッサンだなあ・・・・かなあ 文明社会に嫌気がさしてタヒチで病死ですからね。絵は申し分なく いいのですが、人間的にはあまり好きにはなれないですね。 伝え聞いた話を私なりの感想で悪いですが。
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こんにちは。 既に詳細な良回答がありますので、補足程度に記します。 【Q-3】 ゴーギャン傘下にいたポン・タヴェン派とゴーギャンの芸術理論から強い影響を受けたナビ派です。 ブルターニュ地方の伝統的な風俗、風景は19世紀初頭より多くの芸術家たちを魅了し、ゴーギャン自身もポン・タヴェン村への2度目の訪問により、エミール・ベルナール等と共に「総合主義」を生み出しました。 そして当時直接ゴーギャンに師事したポール・セリュジエがパリに戻りボナール等が集うナビ派が形成されることになります。 「ナビ」とはヘブライ語の「預言者」の意味であり、世紀末の象徴主義さながらの宗教的秘密結社に近似した性質を帯び、ボナールは大の日本好きであったと伝えられています。 【Q-1】 「総合主義」の際立った技法として「クロワゾニスム」が用いられています。 これは中世の有線七宝の技法から派生した、太い輪郭線を用いて平らな色の面を仕切る(クロワゾネ)手法です。 印象派とは一線を画し、この手法を用いてより精神的、思想的なるものをより重視し、象徴的なる記号を絵画に描いていきました。 「はじめに形ありき」ではなく、色彩、輪郭線、諸々の主観を「総合」した結果、「より単純化した形が作られる」というわけです。 【Q-2】 ゴーギャンの作品には当時の文学上の象徴主義運動と並行していった形跡が見られます。 1889年のパリ万博にて「印象主義者と総合主義者の展覧会」を開催し、ナビ派の画家たちが熱心に見学しました。 ポン・タヴェン派がブルターニュ地方で印象主義の克服を試みる一方、パリのナビ派はゴーギャンが南太平洋に渡るまで彼の象徴主義に傾倒しますが、その後ルドンに師事し後年のゴーギャンの象徴主義から離れていくことになります。 ゴーギャン自身は、仕事も家族も捨て去り絵画制作に邁進していく彼の人生とはおよそ異なる崇高なる理念、つまりブルターニュ地方の農民の傍らで、工業化社会が奪い去った人間性、純朴な感情、「宗教」などに価値を見出そうと試みたものの、しかし農民でない彼は後年の南の楽園同様「局外者」としての域を出ることはありませんでした。 【Q-4】 『Two Tahitian Women with Mango Blossoms(マンゴーの花をもつ二人のタヒチの女)』(1899年作 94x73cm) ニューヨーク メトロポリタン美術館蔵 http://www.abcgallery.com/G/gauguin/gauguin71.html タヒチの女性達の素朴な優美さにひときわ胸を打たれる作品です。 晩年のゴーギャンの彼女達に対する心の内面そのままを湛えているかのようです。 ドミニク島で最期を迎えるまで、ゴーギャンは物質的にも精神的にも逼迫した状況におかれていました。 その厳しい実情とは裏腹に、絵画上はこのような大胆で豊かな円熟味で充たされているように思われます。 【Q-5】 周知の通り西洋美術の発祥の地は古代ギリシアであり、人間を中心に理性的に思考する哲学、美術、幾何学等の学問を生み出しました。 ですから西洋美術を鑑賞する際には「なんて美しい!」といった鑑賞者としての「感性」とは全く次元を異にする「作品の背景に対する考察」も存在しますし、また必要に応じて求められたりもします。 むしろ決して無視し得ないものでしょう。 一方プリミティヴ・アートの類は、その制作目的が神話的祭儀なのか、観想の産物なのか、それとも単なる日常の使用に他ならないのか、異文化を背景に持つ文明人のわたくしたちにとってはおよそ測り知れない性質を備えています。 それに対峙することで、反文明性、野性、呪術性といった感覚にとまどいを覚え、時には形容しがたい怪しげな魅力に囚われたりもします。 そしてその際の心持ち、つまり「虚心坦懐にありのままに見つめる」というのは、想像以上に真に難しいことなのです。 ゴーギャンはこのようなプリミティヴなるものに対しいち早く着眼、表現することにより、自らが抱いていた西洋文明の退廃への嫌悪と原始的なるものへの憧憬といった想いを伝統的な西洋美術の世界に吹き込んだ偉大な先駆者でした。 そしてまた「絵画を理解するのではなく心のままに観る、感じる」ことの楽しさや面白さといった醍醐味を、時代に先駆けて世に問いた画家でもあるのです。
お礼
マシュマロさん、ご回答をいただきありがとうございます。さらに詳しく教えていただき、大変に参考になります。すでに、ロングランになりました拙問、『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』で、たくさんのお話を聞かせていただいているので、できるかぎり重複を避けたく、質問を締め切らせていただきました。引き続き、『われわれは・・』での、おつきあいをお願いいたします。 ゴーギャンは多くの画家に影響を与えたものの、必ずしも好意的な評価ばかりを得られたわけではありませんね。お好きな絵にあげられた作品は、柔らかで温かな、女性本来の魅力を湛えており、私も好きな作品です。 ところで、『ノアノア』ですが、ゴーギャンは最初にタチヒの原始性を、過度に美化したために傷心に陥ったのではと考えております。しかし、その反発心が彼の絵を力強く彩っているのは、間違いのないところでしょう。 おっしゃるとおり、「絵画を理解するのではなく、心のままに観る、感じる」ことが肝心です。このことをついつい忘れてしまいますね。ゴーギャンの意図が理解できなくても、彼の想いをそこに感じれば、それで十分なのかもしれません。
補足
sabathさん、mashumaro2さん、どちらも詳細で的確なご回答をいただきましたが、今回が初めてのご回答にもかかわらず、三度にも亘って、わかりやすく技法を解説していただいたsabathさんに、20ptをつけさせていただきます。お二方、どうもありがとうございました。マシュマロさんへのお礼は、のちほどお送りいたします。
浮世絵のように精緻ではないのはズバリ画材の特性のせいでしょう。 油絵だけというものはもともと精緻に描きやすい画材か?というとそう ではなく、水彩の地のテンペラ等の書き込みの上に樹脂と油脂で溶かし た絵の具を薄く塗っていくと細かく描きこんでいるように見えるの ですが、タヒチ時代のゴーギャンが手に入れられた画材を多く見積もって も 下地用の絵の具と彩画用の絵の具、亜麻仁油とテレピンと少量の 樹脂ぐらいではないでしょうか? また目の細かい麻のキャンバスでもないですからどのように美しく 描けるかを絞っていったらこのような技法が残ったのかもしれませんね。 大和絵や浮世絵の原画などが細密に描けたのは墨と筆と紙によるところ が大きいと思います。その逆で複雑なグレーの階調などは比較的 難しい画材ではないかと思います。混色しすぎると色が濁りますからね 水彩は。油彩は複雑なグレーの階調を描き易い画材ですよね。 また強い色を画面に置く場合それに見合った強い形が必要になります。 ゴーギャンの絵は後期になるとわりと強い色を画面に多くの面積で 使っています。 ゴッホは厚塗りとタッチとパースを意図的にを変える、シルエットの形 を吟味するなどで構成しています。 ゴーギャンは薄塗りではあるけれども平面を選択したと言えるのでは ないですかね。赤や黄色やブルーなんかの原色に近い色を画面の中心や 大部分を占めるような描き方はアカデミックな描き方ではまずありえ なかったわけですからさしずめ当時の現代アートなわけです。 また初期印象派は現実世界や日常生活を描くことばかりが 主流だったのですが、ゴーギャンはその方向にはあまり進まなかった。 描いたとしても何かしらメッセージや皮肉を込めて描いているようで それはジャーナリストの父と社会運動家の母の血と本人の資質 だったんでしょうね。 では最後に >どういう画風、どの画家がお好みでしょうか?よろしければお答え願います。 学生時代からルノワールとフランスの伝統的な装飾画家そうですね ブーシェとかフラゴナールなんて好きですね。 現代の日本ではあまり芸術的でないという理由から批判されてますけど まあどうでもいいことです。あとはラファエロとかですかね これも伝統的な西洋の美術の規範とされてますね。まあそんなとこです。
お礼
ご回答をいただきありがとうございます。絵にお詳しい方からのご説明は、大変に役に立ちます。 画材の問題がありましたか。ゴーギャンは貧窮していましたね。浮世絵の影響を受けているのに、ああした画風なのは、アカデミズムへの反発もあったのでしょう。現在、ゴーギャンの著した『ノアノア』を読んでいます。タヒチでのゴーギャンの暮らしが、彼の絵画にどのような影響を与えたのか、興味津々です。 主にロココ美術、伝統的なものがお好きなのですね。挙げられた画家たちの作品には温もりを感じます。絵のご趣味に、sabathさんの優しさが表れていると思います。今後も、質問に回答に、ご活躍を願います。
ああ付け足すの忘れてました。 ゴッホと似たようなモチーフの絵を描いたことがあったはずです。黄色い家に時代に イスの絵だったと思うのですが・・・記憶が曖昧なので置いといて、 平面的な明快な輪郭は当時流行していた浮世絵などの影響らしいです。 そのほか中世のモザイクや壁画ステンドグラス、エジプトや アジアの美術の影響もあるみたいですね。 まあプリミティブな芸術を文明人であるゴーギャンが統合し新しい価値を 創造したってのがわかりやすい解説ですかね。
お礼
再度のご回答をいただきありがとうございます。たくさんのことを教えていただきました。 印象派も浮世絵の影響を受けているようですね。平面的な構図や、くっきりした輪郭は、そのままゴーギャンの特徴でもありますね。浮世絵ほど精緻ではないのは、印象派の名残でしょうか?ゴッホとの関わりも見逃せませんね。
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