以下、失礼な表現が多々ありますことをご容赦ください。
1 ご質問1について
結論的には、「訴える」ことをお考えになるのは無意味です。
(1) 刑事責任
仮に、債務者(A社、とします。)がflorenzさんからの通告を受けた後、本件預金を引き出して他に移した事実があったとして、A社がその時期に本件預金を引き出す合理的理由がなく、差押えを免れる目的であったとしか考えられないとすれば、強制執行妨害罪(刑法96条の2)が成立する余地があります。
しかし、賃金すら支払えない状況にあるA社ですから、florenzさん以外にも多数の債権者に対する支払を抱え込んでいるはずであり、「他の債権者に対する支払に充てるために引き出した」と弁解されれば、「差押えを免れる目的」を立証することは困難です。
そうすると、たとえflorenzさんがA社(の経営者)を強制執行妨害罪の犯人として告訴なさっても、捜査機関が真剣に捜査に取り組んでくれるとは思われません。
(2) 民事責任
債務者が強制執行を妨害する行為をし、これによって債権者が損害を被ったときは、不法行為を理由として損害賠償義務(民法709条)を負うと考えられます。
しかし、本来、預金者が預金をいつ引き出すかはその預金者の自由であることからすれば、預金の引出しが不法行為となるのは、「差押えを免れる目的」のような債権者を害する目的があったことが必要であると考えられます(債務を履行しないのは、債務不履行にすぎず、遅延損害金(民法419条1項)の支払義務を課すことによってその損害が填補されるのが原則だからです。)。
そうすると、上記(1)と同様、「差押えを免れる目的」を立証することは極めて困難でしょうから、florenzさんがA社ないしその経営者らの不法行為責任を追及なさっても、おそらく無益であろうと考えられます。
(3) その他
なお、「いつ残高が0になったか」といった取引履歴に関する情報は、銀行は開示には応じないのが通常です。
florenzさんがA社などを被告として損害賠償請求訴訟を提起された後、取引履歴の送付嘱託(民事訴訟法226条)をお申し立てになって、これを裁判所が採用すれば、銀行が送付に応ずることもあり得ますが、そもそもこのような損害賠償請求訴訟自体が無益と考えられることは、上記(2)のとおりです。
2 ご質問2について
結論的には、再度のお申立てはお止めになることを強くお勧めします。
仮に、florenzさんが、真実「回収できないのは分かってい」らっしゃるにもかかわらず、「ただ、会社に打撃を与えたいためだけに」執行をお申し立てになったのだとすれば、それは権利の濫用(民法1条3項)であり、場合によっては、威力業務妨害罪(刑法234条)にあたるとして、刑事責任すら追及されかねません。
なお、前回のお申立ては、おそらく、「執行が奏功する可能性は低いが、債権回収のために手を尽くす」目的でなさったのでしょうから、威力業務妨害罪の故意があったとはいえず、florenzさんに刑事責任はないと思われます。
3 ご質問3及び4について
結論的には、「全部取り下げ」をお勧めします。
ご質問を拝見する限り、各銀行は、florenzさんがお申し立てになった第三債務者に対する陳述催告(民事執行法147条1項)に対して、「残高なし」、「債権なし」といった回答を返してきたのだと思います。
そして、書記官が「一部取り下げ」や「あいた枠」といったことをflorenzさんに説明したことからすると、おそらく、書記官は、既に差し押さえられた債権の価額が差押債権及び執行費用の額を超える見込みであるときは、民事執行法146条2項(超過差押えの禁止)により他の債権を差し押さえることができなくなる旨を(あくまでも一般論として)説明したのでしょう。
「一部取り下げ」は、執行を申し立てたいくつかの債権のうち、一部については取立の見込みがある場合に、他の取立の見込みがない債権について、執行の申立てを取り下げることを意味します(こうすることで、既に差し押さえた債権の額が、差押債権及び執行費用の額を下回るようにするわけです。)。
本件においては、florenzさんが執行をお申し立てになった預金のすべてについて、取立の見込みがないわけですから、いずれのお申立てを維持されることも無益であると思われます。
再度債権執行をお申し立てになる場合は、従前のお申立てと同様の手続をおとりになることになります。
4 ご質問5について
お見込みのとおりです。
5 労働基準監督署へのご相談を
既にご存知かもしれませんが、A社が賃金確保の支払等に関する法律施行令(令、といいます。)2条2項所定の中小事業主である場合において、同法施行規則(規則、といいます。)8条所定の「事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がないこと」という要件を満たすとき(倒産の認定、といいます。)は、同法7条に基づき、令4条所定の額(未払賃金総額の80パーセント)について、政府が立て替えて支払うこととされています。
倒産の認定は、労働基準監督署長に申請することとされています(令2条1項5号、規則9条2項)。
申請の手続は、退職の日から6か月以内にする必要があり(規則9条4項)、資料の添付も求められます(同条3項)から、労働基準監督署にお問い合わせになるべきでしょう。
ご参考になれば幸いです。
投稿日時 - 2002-03-23 10:33:36